第百七十話
さて、三年生になり普通ならば受験に備える大事な時期となる。しかしこの学園は高等部に進学する生徒が殆どな為雰囲気は去年と変わらない。
「入るのが大変だったけど、高校受験が無いのは良いわね」
「とは言っても試験の結果が悪ければ進学を認められないからな?」
昼休みにだらけた林原さんが染み染みと呟くので水を差しておいた。基本的に自動で進学出来るのだが、定期テストの結果が悪ければ高等部進学を認められないケースが極偶にあるらしい。
「そんなヘマはしませんて。あ、現物支給の最新刊読んだ?」
「アニメ化もされてるラノベだね。俺は読んでないんだ」
現物支給とは「謎スキル現物支給で大儲け」というライトノベルだ。現物支給という訳の分からないスキルを得て馬鹿にされていた主人公がスキルの効果で稼ぎまくるという物語。
「大体、スキル登録の時に検証するんだからすぐに有用だと分かるだろうに」
「そこはほら、物語だからスルーしないと。って、読んでないのに何故知ってるの?」
「有名だから粗筋くらいはね」
モンスターを倒した際にモンスターがそのまま残るというスキルで、レアとなる部位も毎回入手出来るので大儲け出来るというストーリーになっている。
「流行りのラノベも読まないって、滝本君何を趣味にしてるの?」
「日本舞踊は趣味とは言えないか・・・木像彫りとか、ちょっとしたお菓子作りとかかな?」
「渋いっ!渋すぎる!それ、中学生の趣味じゃないでしょ。年齢誤魔化してない?」
精神年齢は誤魔化している事になるが、転生者なので誤魔化してますなんて言えるはずもない。
「戸籍が厳密に管理されてる帝国でどうやって誤魔化すのさ。出来たとしても誤魔化す意味なんて無いって」
「そりゃそうよねぇ」
笑いながら否定し、林原さんも笑って肯定する。それでこの話は途切れたのだが、少し離れた場所での男子の会話が耳に入った。
「あの狐巫女さん、あの後目撃されてないらしいな」
「ああ、軍やマスコミが血眼になって探してるらしいけどな」
あの時派手に戦った玉藻を探している人間は多い。軍は喉から手が出る程欲しいだろうし、マスコミは独占インタビューでもできれば大スクープになる。
「私もテレビで見たけど、あの狐巫女さん凄かったわね」
「あはは、そうだね」
自分の事なのでどう返せば良いか判断できない。取り敢えず曖昧に同調してお茶を濁した。
「でも、何で巫女装束なんだろう。どこかの神社の巫女さんなのかな?」
「かもしれないね。巫女服なんて普通手に入らないし、手に入っても着ようとはしないだろうし」
当たり障りのない予想を返しておく。正解は変化した時のデフォで防御力も高いからなのだが、当然それを言うなんて出来ない。
林原さんが何かを言おうと口を開いた瞬間、スピーカーから昼休み終了を告げる鐘の音が鳴った。
「次は英語かぁ。外国行く事なんて無いのに何で勉強するんだろ?」
「同盟国の言語だからじゃないかな。ほら、直に先生が来るよ」
林原さんは渋々自分の席に帰っていった。俺は英語の教科書とノートを出して授業に備える。
因みに、前世では第一次世界大戦後に破棄された日英同盟はこの世界では破棄されていなかった。その影響からか英国からは定期的に船団が帝国に訪れている。
春の暖かい日差しを受け、満腹になった生徒が眠気と戦いながらも授業を受ける。俺も出そうな欠伸を堪えつつノートに訳文を書き込んでいった。




