第十七話
授業を受けない事に問題はない。何せ一度は専門学校まで出ているのだから、歴史と地理以外は教科書を見て思い出す程度で良い結果を出せる。
歴史はダンジョン出現以降が激変しているので学び直しが必要だった。地理は世界大戦が無かった事で一部国まで変わっている。
例えば朝鮮半島は日露戦争が起きなかった為中国領だし、ロシア帝国はダンジョンの氾濫で国を維持できず崩壊、地域毎に独立した国家群となった。
家に帰り着き、着せ替え人形で私服に換装する。着替えが一瞬で終わる上に洗浄と修復までしてくれるこのスキル、一度使ったら手放せない神スキルだよな。
授業を受けずに帰った事とその理由を話す為に医院の方に移動する。相変わらず待っているご婦人方は多いが、母さんは少し手が空いているようで何もせずに受付に座っている。
「母さん、ちょっと良いかな?」
「あら、優ちゃん。もう学校は終わった・・・なんてことは無いわよね?」
「ああ、実は・・・」
ご婦人方が居るこの場で話す事ではないかもしれないが、新たな患者さんや電話の対応があるので母さんをこの場から離す訳にもいかない。
「先生方の気持ちも分からなくはないし、優ちゃんの提案が一番現実的ね。どう転ぶにしても連休明けになるでしょうし、優ちゃんの思うままにすれば良いわ」
「そうさせてもらうよ。思わぬ時間が出来たから、ギルドでカードを作ってくる」
この世界にはダンジョンからの産物を管理するギルドが設立されている。基本的にダンジョンでの戦利品はここに売却するのだが、義務という訳では無い。
個人での売買も可能だがトラブルになる事も少なくなく、それを避ける為にギルドへと売るのが一般的だ。銀行口座に紐付けしたギルドカードを使えば税務申請が楽というのもある。
「ちょっと、今の話詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「優ちゃんにそんな疑いかけるなんて、ちょっと許せないわねぇ」
背後で母さんにご婦人方が詰め寄っているようだ。中学校はこれから色々と大変になるかもしれないが、俺が望んでそうなる訳では無いし先生方には頑張ってもらおう。
母さんに状況を伝えた俺は最寄り駅から電車に乗って家から最も近いダンジョンへと向かった。ダンジョンには必ずギルドの事務所が作られていて、戦利品を直ぐに買い取れるようになっている。
自動ドアを抜けて中に入る。役所のように幾つもの窓口が並んでいるので適当な窓口で要件を伝える。
「すいません、ギルドカードの発行をお願いしたいのですが」
「では身分証明になる物と紐付ける銀行口座のカードを・・・はい、こちらになります」
窓口のお姉さんは慣れた手付きでカードを発行してくれた。そのまま帰るつもりだったが、全く時間がかからなかったのでダンジョンを覗いてみよう。
窓口が並ぶ一角を離れ奥に進むと一度建物外に出て塀に囲まれた区域に入る。この中にダンジョンへの入口があるのだ。




