第百六十九話
薄紅色の桜散る四月、舞の入学式も恙無く終わり無事に兄妹揃ってベルウッド学園の生徒となった。今日からは二人で電車通学する事になる。
「うっ、覚悟はしていたけど混んでるね」
「次の駅で更に乗ってくるぞ」
舞を奥のドア際に立たせ、守るように俺が立つ。これで邪な欲望を持つ不届き者から守れるし、電車が揺れても俺が踏ん張れば舞が押される事もない。
ぎゅうぎゅう詰めの車内で堪える事三十分。乗り換える駅に到着する。しかし、乗り換える電車は輪を掛けて混んでいるので救いにはならない。
一車両に三箇所ある扉のうち端の扉を選んで乗り込む。さっきと同じように舞を扉の前に立たせて俺がガードする。
目的の池袋駅までに二箇所の駅に停車するのだが、この時間は端の扉は開かないので池袋まで行くならここの方が楽なのだ。
「お兄ちゃん、何でここの扉を開けないの?」
「この混みようだと、扉を開けたら人が溢れて押し込まないと扉が閉まらなくなるんだよ。配置されてる駅員さんが少ないから、全ての扉を開けると手が足りなくなるんだ」
これは前世も同じだった。平行世界でもそこは変わらなかったようだ。
周囲に迷惑にならない程度の音量で雑談をしているうちに池袋駅に到着した。改札を出て学園への最寄りの出口から地上に出て歩く。
周囲には俺たちと同じ制服を着た男女が同じ方向に歩いている。真新しい制服の一年生の中には緊張しているようでどことなくぎこちない歩き方をしている人もいた。
「それじゃあ終わったらメールを入れるからな」
「うん。私が先だったらメールするね」
一年生の下駄箱に向かう舞と玄関で別れ靴を履き替える。この学園はクラス替えが無いのでクラスを確認する手間はない。
舞も合格通知に所属するクラスが表記されていたので同じく確認する事もない。
休み前までは三階の一番端の教室だったが、今日からはニ階の一番端になる。間違えて二年生の教室に入るなんてお約束はせずに三年生の教室に入った。
担任の先生もそのまま繰り上がりになる為、ホームルームはこれからの予定を口頭で説明された後配布物を受け取り終了となる。
時間割や年間行事を紙媒体で配るのは時代遅れと言う人も居るが、未送信や誤送信、データの流出を防ぐには昔ながらの紙媒体が無難という事だそうだ。
上流階級の子女が通っている学園だけに、そういった予定表を入手して悪用する輩も居るのだ。
トラブルも無くトントン拍子でホームルームは終了した。スマホを確認したが舞からのメールは入っていない。
新入生には各施設の説明等も行われるので俺達より時間がかかるのだ。終わったので食堂で待つと舞にメールを入れた。
「お兄ちゃんお待たせ・・・何で干芋を食べてるの?」
「何かあった時の為の非常食用だよ。舞も食べるか?」
「食べる!」
あって欲しくはないが、この間のように氾濫が起きれば帰宅困難になる可能性もある。その時にコンビニなどが営業しているとは限らない。
なので手軽に食べられて保存も効く非常食として鞄に入れておいたのだ。当然薩摩芋は迷い家産なのは言うまでもない。
帰りの電車は昼前という事もあって空いていた。座席に座り車窓から風景を楽しむ余裕まである。
「舞、クラスには馴染めそうか?嫌な奴とかいないか?」
「まだ話したりしてないから断言は出来ないけど、多分大丈夫だと思う」
小学校までは仲の良い子と一緒だったし顔見知りも多かった。しかしこの学園のクラスには初対面の子しか居ない。
気の合う子と仲良しになってくれれば良いがと過保護ぶりを発揮する優だった。




