第百六十三話
週明け、テストの結果が返ってきた。順位は学年で十二位、一桁に届かなかったが悪くもないという半端な順位だと思う。
「滝本君、学年でその順位は良いと思うけど?何で微妙そうな顔してるのかな?」
「もう少しで一桁だったと思うと悔しいと思ってしまう訳で・・・林原さんの方はどうだったの?」
「・・・それは聞かないのがお約束という物よ。乙女の秘密と言う事で」
他の人と順位を競いたい訳では無いが、順位を提示されてしまうと上を目指したくなるのが人の性というものだ。
林原さんとの軽い雑談を楽しみ下校する。下駄箱で靴を履き替え校門に向かう途中でばったりと鈴木さんに遭遇した。
「お久しぶりです滝本様」
「お久しぶりです。随分とお疲れのようですね」
今日の鈴木さんは以前会った時と違い、どこか疲れているように見えた。立ち姿は綺麗だしすました表情も変わらないのだが、雰囲気的にそう感じた。
「流石は滝本様ですね。先週は立て続けにトラブルが発生しましたので家中が騒々しかったのです」
「私が直接何かをするという訳ではありませんでしたが、鈴木の一員として情報は把握する必要がありましたので」
鈴華さんの言葉に鈴木さんが補足を入れる。鈴代は今日は何も喋らない。敵意を向けて来る様子も無いし、前回の言動は仕込みだったようだ。
「大財閥の一員ともなれば庶民が窺い知れぬ苦労もあるのでしょうね。呉々もご自愛下さい」
「お心遣い感謝致します。では失礼します」
三人は車寄せに停まっている黒い高級車に乗り込んでいった。俺は校門から池袋の駅に向かって歩く。
軍から安全だと宣言が出たとはいえ、先週は人の出が少ないように感じていた。しかし今日は結構な人が池袋の街で楽しんでいる。
それから十日は何事もなく過ぎた。ダンジョンには各種お肉の補充に潜った程度で先に進んではいない。そして明日は終業式となる日の夕食で舞が俺の予定を聞いてきた。
「お兄ちゃん、春休みは何か予定があるの?」
「いや、できれば板橋ダンジョンに潜ってみたいと思ってる。学園に近いダンジョンだし、潜っておいた方が良いだろう」
また氾濫なんてしないとは思うけど、また馬鹿が湧かないとも限らない。彗星鶏を優でも倒せるよう慣れておこう。
「優ならば大丈夫だとは思うが無茶はしないようにな」
「安全マージンは多目に取っているから大丈夫だよ。十九階層以外はいつものダンジョンと変わらないモンスターだしね」
地形で難易度の変動はあるがさしたる問題ではない。もし疲労が溜まるようならば迷い家で安全に休めるのも大きい。
こうして板橋ダンジョンに潜る許しを得た俺は二泊三日で板橋ダンジョンに潜る事となった。ダンジョンの封鎖も解けて一般の探索者も入れるようになっている事も確認済みだ。
翌日の終業式も何事もなく終わり、板橋ダンジョンに備える。と言っても迷家に持ち込む調味料を買う程度なのだが。
その翌日の朝、舞と母さんに見送られて板橋ダンジョンに向かう。電車を乗り継ぎ到着した板橋では複数の探索者がダンジョンに向かって歩いていく。
「なあ、あいつ武器持ってないがポーターかな?」
「魔法職なら杖持ってるだろうし・・・でも一人みたいだぞ」
武器無しというのは悪目立ちしそうだ。絡まれても面倒だし、道を外れて女性体になってからギルドに向かうとしよう。




