第百六十二話
二日遅れたものの、期末テストが実施された。全体的に難しかったが解答欄を埋める事は出来た。後は結果が返ってくるのを待つ事しか出来ない。
尚、初日のホームルームで市立中学校教諭の暴言については関係者が処分されたので拡散しないようにとのお達しがあった。
「本日はお時間をいただきありがとうございます」
「これはご丁寧にありがとうございます」
テスト明けの土曜日、関中佐が我が家に訪問してきた。リビングに通された中佐は母さんに手土産のかもめの玉子を渡した。
あのお菓子、この世界にもあったのか。となると、白い恋人とか南部せんべいもあるのかもしれないな。
ソファーに関中佐と両親、俺の四人が座る。子供に聞かせる話ではないので舞は自室に居てもらう。俺は当事者なので同席した。
「まず、彼らに対する処罰から報告させて貰います。学年主任は既に懲戒免職の上教員免許を没収。教頭と校長は今年度末で退職金無しで依願退職となります」
「あの学年主任が今後教職につけないというのは安心ですな。私情で成績を操作するなど以ての外だ」
中佐の報告を聞いた父さんが憤慨する。公立学校の信用を落とす真似をしたのだから当然の処罰だと思う。
「ついでに、埼玉県教育委員会の委員長も任期を残して辞職させます。完全にとばっちりですが、責任者としてのけじめですので」
関係者への処分を聞き、次は口止めに対する対価の話となる。しかし、俺達は金銭等が欲しい訳では無いのだ。
「我々は彼らが処罰されればそれで良いのですが・・・中佐殿にはお世話になっていますし」
「あの事件の後処理は当然の業務ですのでお気になさらずに。加害者が我が軍の者でしたし」
中佐には色々と動いて貰ったのでそれで十分なのだが、軍としては何も無しとはいかないのだろう。父さんと母さんは何か無いかと頭を悩ませているが何も思いつかないようで沈黙している。
「それなら、後に俺の能力絡みで家族に危害が加えられそうになった時に力を貸して頂けませんか?」
「優君は軍に志願しているのだし、それは構わないが・・・トラブルが予想出来る心配事でもあるのかな?」
ここで俺が玉藻なので外国からも狙われそうですなんて言えない。なので別の理由で納得して貰う事にする。
「実は俺の着せ替え人形なんですが、洗浄と自動修復の機能も付いているんです」
「えっ、自動修復って破損した武具が勝手に直るの?」
自動修復はスキル判定の時に担当したお姉さんにも言った筈だが、報告に記載されていなかったのだろう。
「そうです。俺が使っている片手半剣は、捨てられていた折れた剣を修復したんです。柄と剣先を別々に修復したので二本になったんですよ」
「それじゃあ、態と折った剣を修復させれば同じ剣が二本に増えると。質量保存の法則ガン無視だなぁ」
関中佐も両親も、トンデモなスキルである着せ替え人形に更なるチートがあると聞いて呆れている。
「元があれば武具を無限に増やせるのか。そんな事が知られたら家族を人質にしてでも欲しいと思う輩は出てくるだろうな」
「試してないから断言は出来ないけど、多分ミスリルやオリハルコンの武具でも出来ると思う。少なくとも魔鉄の剣は増やせたしね」
父さんの言葉に母さんと関中佐も頷き、俺があんな要望を出した理由に納得してくれた。この能力、金で剣を作って増産とかも出来るからなぁ。
「こりゃ優君の提案を受けた方が良いな。だが、その時は俺の一存で人を動かす事にする。上に知られたら絶対に利用しようとするからな。部下にも言わないと約束するよ」
こうして俺は軍に入る前から万が一の場合関中佐の協力を取り付ける事に成功した。有り難いが中佐にはお世話になってばかりだ。何れ恩返しをしないといけないな。




