第百五十九話
「わぁ、何度見ても美人さんだよ。それにあの尻尾、触りたいなぁ」
朝食を食べながら流れているテレビを見て舞が呟く。画面の中では巫女服を着た狐耳の少女が火の玉を生み出してモンスターを焼いていた。
「このような映像を解析した結果、軍はモンスターの脅威は無いと判断された訳ですね」
「別角度から撮られた映像でも討ち漏らされたモンスターは確認出来なかったとの事です」
テレビで流れているのは、過日板橋で行われた氾濫阻止戦の模様だった。ギルド周辺に設置された監視カメラの中でゴーレムにより空けられた穴の周辺を記録した物だ。
「ご覧の通り狐と覚しき獣人の女性が魔法も駆使しモンスターを阻止しています」
「これまで魔法が使える獣人という存在は確認されておりません。これは狐という種族の特性なのか、彼女が特別なのか興味深いですね」
あの穴周辺の監視カメラの映像を解析した軍は日曜日の午前中にはモンスターは逃げ出していないので安全だと公式の声明を発表し、その証拠として監視カメラの映像を公開した。
唯一確認されている狐獣人が魔法を駆使して戦う映像なんて代物を放送局が流さない訳が無い。自称専門家と名乗る者をスタジオに呼び、ああだこうだと議論している。
「お兄ちゃんも現場に行っていたら有名になったかもね」
「舞、有名になんてなっても良い事なんて殆ど無い上に面倒事がごまんと降り掛かって来るんだぞ」
何処に行っても人の目を気にする生活なんて真っ平御免だ。俺はただ女神様との約束を守りつつ家族と平穏に過ごせればそれでいい。
「しかしこの娘には感謝しないとな。もしモンスターが都内に放たれていたらどれだけの損害が生まれていたやら」
「そうね、逃げたモンスター全部が討伐されるのを確認するまで都内では出歩けなくなっていたわね」
そうなっていたら、学園も休みという事になりカリキュラムが大幅に狂っていただろう。しかし軍の宣言を受けて水曜日から期末試験を開始するとの通達が来ている。
「でも、本当に綺麗ね。この娘が優ちゃんのお嫁さんになったら・・・」
「最強の夫婦になるな。優、あの娘とペアを組んだらかなりの深さまで潜れるな」
「確かに、ペアを組めたら面白いかもしれないけどね」
もしも玉藻と優がペアを組めたら、冗談ではなくダンジョンの底まで行けるかもしれない。でも、それは絶対にあり得ないのだ。
「お兄ちゃんがあの人と結婚したら、あの尻尾をモフり放題・・・」
「舞、お前はお兄ちゃんのお嫁さんをモフモフで決めるのか」
玉藻の尻尾は絶品なので気持ちはわかる。でも、お兄ちゃんとしてはちょっと悲しいぞ。
「ほら、そろそろ支度しないと学校に遅れるぞ。父さんと母さんも準備しないと。後片付けはやっておくから」
「あっ、いけない!ご馳走様でした!」
「ありがとうね、優ちゃん。甘えさせてもらうわ」
のんびりし過ぎて時間が遅くなり、舞は慌てて学校へと走り父さんと母さんは医院の診察準備に向かった。
「我々はこの少女の情報を募っています。小さな事でも情報の提供をお願いします」
「募った所で以前の映像くらいしか出てこないだろうな」
俺はリモコンでテレビを消すと食器をキッチンに運ぶ。自動食洗器に入れてスイッチを押せば後は待つだけだ。
今日と明日は明後日からのテストに備えて勉強に専念する事にしよう。




