第百五十八話
俺はザルを持って迷い家を出て男に戻る。干芋を少し千切って食べてみたが、市販の物と遜色ない出来になっていた。
この事から、迷い家で食品を加工する場合一度出れば即座に加工される事が証明された。キッチンからビニール袋を持ってきて干芋を詰める。
再度ザルを持って迷い家に入る。今度は畑から薩摩芋を収獲し、茹でて切りザルに並べた。前回と同じ場所に設置すると、あっという間に水分が抜けて干芋となっていく。
この事から、迷い家産の作物は時間がかかる加工は一度出なくても即座に終了する事がわかった。稲も収穫してから籾を焼くまでの間に乾燥が終わっていたのだろう。
ザルを持って迷い家から出ると男に戻る。こちらの干芋も少し味見をしてみたが、先程の干芋よりも美味しかった。迷い家産の薩摩芋を使用したからだろう。
検証で疲れた俺は干芋を先程とは別の袋に入れてザルを戻すと勉強をせずにそのまま眠ってしまった。
翌日は土曜日なので学園は休み。いつものルーチンを終わらせてテストに向けた勉強をする。歴史と地理はしっかりと復習しないと、前世の物と混同してしまいそうになる。
「お兄ちゃん、お昼のご飯を・・・その干芋どうしたの?」
「ああ、これか。試しに自作してみたんだ。少し味見するか?」
俺と舞は学校が休みだが、医院は土曜日でも午前中は診察をしている。なのでお昼ご飯は母さんが作り置きするかスーパーで買ってくるか俺が作るかになっている。
今日は作り置きが無かったのでどうするか舞が聞きに来たようだ。そして昨夜作った干芋を発見されてしまった。
「こっちとこっちの袋、何か違うの?」
「片方はスーパーの薩摩芋で、片方は美味しい野菜の所の薩摩芋だ。両方食べてみるか?」
まずはスーパーの薩摩芋で作った干芋を渡す。両手でしっかりと持って少しずつ食べる仕草が可愛くて仕方ない。
「美味しい!普通に買ってきたと言われても納得しちゃうよ!」
どうやら舞の口に合ったらしい。次いで迷い家産の薩摩芋を使った干芋を渡す。先程と同じく両手で持って食べたのだが、一口食べると目を見開いて動きが止まった。
「何これ・・・お芋が違うだけでこんなに美味しいの?お兄ちゃん、これ売りに出したら飛ぶように売れるわよ」
「そんなに美味しいか?売るつもりは無いが、舞が気に入ったなら時々作るかな」
なにせ材料費ゼロ円、光熱費ゼロ円、完成までの時間は一時間足らずという手軽さだ。
「これ、お父さんとお母さんにも食べてもらいたいけど貰って良い?」
「ああ、両方持っていって良いぞ」
その後、舞は診療時間が終わって終業の事務処理をしていた両親の下に突撃、干芋を味見させたそうだ。
「あのお芋、凄く美味しかったぞ。あんな美味しい作物を売ってくれる農家さん、父さんも一度会ってみたいな」
「そうね、お米もまた買いたいし何処のお店なの?」
「軽トラを使った移動販売の直売だから、運が良くないと出会えないんだ。だから会うのは難しいかな」
苦しい言い訳だが、まさか迷い家産ですと正直に言うわけにはいかない。
「それは残念だな。もし出会えたらまた買ってきてくれ」
「そして美味しい野菜をありがとうと伝えてね」
「うん、必ず伝えるよ」
無難な答えを返したが、伝えるとしたら玉藻か宇迦之御魂神様か。野菜の本当の出所を知ったら驚くだろうなぁ。




