第百五十七話
「ビックリしたよ。慌ただしく黒塗りの車が入ってきたと思ったらトレイン発生の放送だもの」
「氾濫の現場なんて一生に一度経験するかしないかだからな」
夕食後、母さん特製親子丼を食べすぎた俺達一家はリビングで雑談をしている。話題はもちろん今日のトレイン騒ぎだ。
「しかもギルドの壁に穴を開けられたらしいじゃない」
「そうそう、そこに駆け付けて被害を未然に防いだのが狐巫女さんなの!」
母さんの言葉に舞が嬉しそうに答える。舞はネットで色々と情報を集めていたようだ。得意げな顔でそれを披露する。
「溢れるモンスターをバッタバッタと薙ぎ倒して、軍が到着したら先陣をきって穴に突入したらしいわ。あんなに綺麗で強いなんて、もう最高!尻尾モフモフしたい!」
テンションが上がり自分の世界に浸る舞。玉藻の尻尾はフサフサでモフモフだから、モフりたい気持ちはよくわかる。
「お兄ちゃん、近くに居たんだし会えなかったの?」
「舞、学園がある池袋とダンジョンがある板橋は隣の駅とはいえ離れてるからな。それに彼女が来た頃にはもう避難してたから」
学園は板橋寄りにあるので直線距離はそう遠くなかったのだが、話がややこしくなるので余計な事は言わない。
「原因のパーティーは夫婦鶏を倒した実績もあったみたいだな。しかし板橋の十九階層は特殊な種類で強かったそうだ」
「何で態々強い相手と戦いに行ったのかしら?」
「彗星鶏というレアモンスターからのドロップ採取を依頼されて取りに行ったからだって。依頼元の企業が凄い叩かれてるわ」
依頼した企業はその探索者の実力を知っていて依頼したのだろうか。どのようにして依頼したのか知らないが、人を見る目が無かったと諦めるしかないな。
「丁度週末だから時間が空くけど、テストは日程通りにやるのかな?」
「それは学園の判断を待つしか無いわね。明後日には連絡が来るでしょう」
取り敢えず、日程通りでも対応出来るように明日と明後日は勉強に費やそう。私立は公立よりも難しいだろうしね。
話が途切れ、ふとつけたままになっていたテレビに目が行った。画面にはどこかの農村の風景が映し出され、木で作られた台に吊られて干されている稲が並んでいた。
「あら、稲架掛けね。あのお米もこうやって丁寧に干されたのでしょうね」
「美味しかったからなぁ。かなりの愛情と手間を掛けて作られてたと思うぞ」
父さんのセリフに顔が引きつる。あのお米は妖狐の力か神様の力で創られたと思います。
お腹がこなれて移動出来るようになったので自室に戻る。ベッドに横になり思考を巡らせた。
俺は収獲してお米をそのまま持ち帰った。本来行うべき作業である干すという作業を行わずにだ。なのにちゃんと食べられる状態になった。
迷い家について考えていたら一つの事象を思い出した。以前、お米を持ち込んで炊いた時、一度出入りしたらすぐに炊きあがった事があったのだ。
もしかして迷い家の食材は加工や調理の時間を短縮する効果があるのだろうか。
俺は思いついた仮説を検証する為キッチンから薩摩芋を一本拝借する。ついでにザルも持ち部屋に帰った。
玉藻になり薩摩芋とザルを持って迷い家に入る。台所で芋の皮を剥いて茹でた。それを切るとザルに並べ、昼ならば日当たりが良い風通しの良い場所に置く。
そのまま迷い家を出て部屋に戻り、すぐさま迷い家に入った。置いておいたザルを見ると、美味しそうな干芋が並んでいた。




