第百五十三話
「よし、このまま戦線を押し上げるぞ!」
俺が突撃した事で後ろの圧が下がり、包囲を縮める事にしたようだ。元の出口の封鎖が上手く行っているなら、被害は最低限に抑えられるだろう。
「狐獣人殿、ご協力感謝する。貴女が居なければ逃れたモンスターで大きな被害が出る所でした」
「これは丁寧なご挨拶痛み入る。妾とて帝国に住む者、無辜の民に被害が出るのは看過できぬ故」
軍の責任者らしい軍人さんが挨拶をしてきた。その間、軍人さんも俺もモンスターを倒す手を緩めていない。
「このまま穴から突撃して、中の探索者と挟撃するつもりだ。それにも協力していただけるかな?」
「勿論じゃ。完全に終息するまで付き合うつもりじゃぞ」
軍人さん達の連携は流石の一言で、俺達は穴のすぐ近くまで戦線を押し上げた。
「一斉に魔法を撃ち込んで突入する隙を作ります。合わせて頂けますか?」
「了解じゃ。合図は頼むのじゃ」
俺は狐火を三発出して、燃やす対象をモンスターに設定した。どんなモンスターに当たるか分からないので、大雑把な設定にしたのだ。
「いきます。撃ったら先陣を切って下さい」
「突入一番槍を貰って良いのかのぅ」
「ここの戦いに於ける最大の功労者は貴女です。誰も文句は言いませんよ。魔法、撃て!」
後方から複数の魔法が放たれた。火が右翼、土が中央、水が左翼と属性別に場所を分けられている。これは火と水で相殺されないようにだろう。俺も狐火を火魔法に合わせて撃ち込んだ。
それと同時に走り出し、岩の弾丸を撃ち込まれてパニックに陥っている敵地に飛び込んだ。浅い階層のモンスターは耐えきれずに魔石に変わっている。
傷を負いながらも迫る青毛熊に狐火をお見舞いし、左右から同時に飛び掛かってきた群れ狼を閉じた鉄扇で叩き落とす。
光となった青毛熊の後方から飛び蹴りを放ってきた蹴撃兎を横に躱し、通過する兎の首を開いた鉄扇で切り落とした。
「探索者に告ぐ。こちら市ヶ谷所属のダンジョン攻略部隊だ。狐獣人殿と共に穴から出るモンスターを殲滅した。誤射しないよう注意しろ!」
少し遅れて突入してきた軍人さんが叫んだ。俺達の突入に気づかずに魔法を撃ち込まれたら、いらない損害が出てしまうからな。
「軍が来た!」
「狐獣人って、前に話題になったあの娘か!」
出入り口前を守っていた探索者達から歓声が上がった。どれだけ続くか分からない戦いに軍という助けが来たのだ。さぞかし嬉しい知らせだっただろう。
跳び百足の関節部分を広げた鉄扇で切り裂く。頭部を失った胴体はジタバタと暴れているが、じきに魔石へと変わるだろう。
やがて襲い来るモンスターの数が減り、残ったモンスターにこちらから出向いて襲うようになった。どうやら打ち止めが近いらしい。
「新たなモンスターが出てきていない。残りは残敵掃討だけだ!」
誰かの叫び声が建屋内に響き、喜びの声が上がる。数的にも優位に立った人間側に負ける要素はほぼ無く、何事も無く掃討は完了した。
「後はダンジョン内に残っていた探索者の捜索ですが、それは我ら軍の仕事となります。ご協力ありがとうございました」
「ふむ、では妾はこれでお役御免じゃの」
探索者達からかなりの視線を受けているし、とっとと退散したい。学園の近くでのトレインという事で家族も心配しているだろうし。
「後日お話を伺いたいので、連絡先などを教えて頂きたいのだが・・・」
「すまんがそれは断らせてもらう。こちらにも事情があるでな」
俺は軍人さんの申し出を断ると同時に空歩を発動。人々の頭上を駆け抜け穴から外に飛び出した。そのまま高空まで上昇する。
そのまま南西に駈けて新宿御苑の上空から急降下し、人の居ない場所に降りる。迷い家から学園の鞄を取り出して妖狐化と女性体を解き男に戻った。




