第百五十一話
目の前のオークが振り上げた棍棒を叩き付ける。閉じた鉄扇で受け流し、伸びた腕の関節を鉄扇を開いて切り裂こうとしたが中断する。
狐火を三発、右の方向に撃ち出す。そこでは警官隊が盾を重ねてゴーレムを押し留めていた。
そのゴーレムの背中を駆け上がり、警官隊の頭上に飛び上がった真っ赤な鶏。その胴体に狐火は全弾命中し、鶏はたまらず墜落する。
落下地点に居た警官が慌てて逃げている。人の上に落とす事になったのは申し訳ないが、無傷の鶏に奇襲をかけられるよりはマシだろう。
そんな感じで他所に意識を向けた俺にオークは棍棒をバットのように両手で握って当てにきた。俺は跳躍して棍棒に両足の裏を当てる。
力自慢のオークが放った渾身の一撃。それを空中に浮いている状態の俺が食らえばその威力をまともに食らう。ダメージこそ無いが叩き込まれた運動エネルギーにより俺の体は見事に吹き飛んだ。
しかしそれは俺の狙った行動だった。先程のゴーレムの背中を別の鶏が駈けている。時間差で襲撃をかけるつもりなのだろう。
そんな鶏に勢いを乗せたドロップキックを炸裂させた。オークの力もプラスされたキックの威力は鶏を魔石に変えるのに十分な威力を持っていた。
すぐに立ち上がり先程落とした鶏の方を見ると、警官達が寄って集ってタコ殴りにしたらしく光に包まれている。
ついでにゴーレムの顔面に狐火を連続して叩き込む。いきなり火の玉をぶつけられたゴーレムは両腕で顔面をガードした。
ゴーレムの意識が顔面に移ったタイミングでゴーレムの左足の膝を後ろから思い切り蹴る。膝カックンをされたゴーレムはバランスを崩し、警官隊が押していたので転がってしまった。
こうなると体が大きいゴーレムは立ち上がるのに時間がかかる。警官隊はその隙を見逃さず攻めに転じた。足と腕を数人の警官が体重をかけた盾で抑えて自由を奪う。
他の警官は盾でゴーレムの体を叩き続けた。一撃の威力は小さくとも、多数の警官で殴ればトドメを刺せるだろう。
「待たせたな、警官隊は下がれ!」
「ギルドの正門前に救護所を開設した。負傷者はそちらに運べ!」
警官隊が道を開け、野戦服を着た集団がモンスターに襲いかかっていく。どうやら陸軍が到着したようだ。
当たり前の話だが、治安維持を任務とする警官隊と戦闘を任務とする軍では戦闘力が違う。見事な連携でモンスターを殲滅していった。
ゴーレムが開けた穴は後続のモンスターにより広がっていた。そこから大量のモンスターが出てきていたので戦線維持が精一杯という状況だった。
しかし軍が到着したのでこの場は心配無さそうだ。黒鉄虫や火鷹には魔法スキル持ちが応戦して逃さず撃墜している。
「これならば斬り込めるかの」
俺は両手の鉄扇を開き穴に向かって突撃する。突撃豚と突撃牛はモンスターが密集していて突撃が出来ない。
突撃出来ない突撃豚と突撃牛などただの牛と豚だ。鉄扇で首を切り裂き対処する。迷い猫や奇襲ヘビといった軽いモンスターは蹴って対処した。
扱いが酷いが、そうでもしないと処理しきれない。そんな中、時折オロオロしている狼が散見された。孤独狼が多数の中に放り込まれて挙動不審になっているようだ。
・・・人間でも狼でも、ボッチが大勢の中に入った時の行動は変わらないようだ。それを克服できた個体が群れ狼に昇格できるのだろう。
なんて、そんな事はないか。




