第百五十話
ギルドに到着し、どこに降りようかと最適な場所を探していると壁が外側に向けて吹き飛んだ。内部からモンスターに破られたらしい。
壁に開いた大穴からゴーレムが姿を現した。ダンジョンを隔離する区域の壁は普通の建物よりも鉄筋を多く頑丈に作っているが耐えられなかったようだ。
総鉄板張りで作ればゴーレムの打撃にもかなり耐えられるのだろうけど、国内に三桁を越えるダンジョンの囲い全てをそうするには膨大な予算と資材が必要となる。
都市圏等の重要な場所だけ厳重にするという手もあるが、田舎を見捨てるのかと批難が殺到するだろう事は容易に想像がつく。
もしも全ての囲いを強化するとしたら、今度は何処から手を付けるかで論争となり収拾がつかなくなるだろう。
「おっと、取り敢えずあやつを止めねばならぬのぅ」
足場から飛び降りる際に側面を蹴って加速する。その勢いのままにゴーレムの側頭部を蹴り飛ばした。これで倒せる訳では無いが、時間は稼げる。
「おい、破られたのはこっちだ!・・・あ、あなたは!」
「お疲れ様じゃな。氾濫と聞いて駆け付けた所にこいつが出て来おっての、取り敢えず蹴り飛ばした所じゃ」
破壊音を聞いて駆け付けた警官が俺を見て固まった。驚くのは良いが仕事は熟してもらわないと困るのだが。
「妾がこのまま倒しても良いが、重量武器は持ち合わせておらぬ。誰か・・・おや、思ったより早かったのぅ」
以前素手でゴーレムを倒した時はそれなりに時間が掛かっていた。なので手っ取り早く重量武器を持った探索者を呼んで貰おうと思ったのだが蹴り続けている間に魔石へと変化した。
「話す片手間に蹴り続けられて負けるって、不憫過ぎるだろ」
「と言うか、素手でゴーレム倒すってどれだけ攻撃力あるんだよ」
警官がドン引きしているが、今はそんな事を構っている余裕はない。ゴーレムが開けた穴は塞がった訳では無いのだから。
「これこれ、今は非常時。仕事を全うせんか」
勢いよく走り出てきた突撃豚にカウンターで蹴りを食らわせ魔石に変える。その隙を狙ったのか黒鉄虫が二匹飛んで逃げ出そうとしたので狐火を出して撃墜した。
「ちょっ、あのパワーに火魔法まで使えるのか」
「獣人が魔法?そんな話聞いた事無いぞ!」
奥の手とする為に、今まで人前では狐火を使っていなかった。しかし、ここで黒鉄虫だろうと逃してしまえば一般人には大きな脅威となる。
それを防ぐ為に出し惜しみをせず全力でモンスターを叩かねばならない。
「ゴーレムは何処だ!」
「逃げ出したモンスターはどれだけだ!」
破られた壁から出たモンスターの対処の為に探索者が駆けつけて来た。出てくる数が増えてきたのでこれは助かる。
「今の所は逃しておらぬ。じゃが、そろそろ一人ではキツくなって来たでの、参加してくれぬか?」
「えっ、あっ、狐獣人さん!」
「あっ、はい、行くぞ!」
青毛熊の突きを間合いを詰めながら躱し、すれ違い様に首を鉄扇で落とす。時折飛んで行こうとする黒鉄虫に狐火をぶつけて撃墜し、足元に這い寄る奇襲蛇を踏み潰した。
ゴブリンは近寄りたくないので狐火で焼却処分とし、頭上から放たれた火の玉を躱しつつ跳躍、奇襲をかけてきた火鷹の首を切り落とした。
「な、何だよあれ、あれが獣人の力なのか」
「その数が国の防衛力となる存在か、あれを見たら納得だわ」
戦いながらも俺の戦闘を気にしていた探索者達の呟きが聞こえたが無視して戦い続ける。モンスターはまだまだ居るのだから。




