第十五話
思考が一区切り付いた所で俺は妖狐化と女性体を解除し男の体に戻った。やはり男が一番落ちつく。前世と合わせて70年程男として過ごしてきたのだから、当然と言えば当然だ。
翌朝、いつもの時間に目覚めた俺は毎朝のルーチンを熟そうとして留まる。女性体になった時に胃が小さくなったのを感じた。ならば、心肺能力や柔軟性はどうなのだろう。
今日はそれを試そうと思い女性体でジャージに着替えた。庭に出ようと一階に降りると、朝食の支度に起き出した母さんと出くわした。
「優ちゃんおはよう。今日も女の子のままなのね」
「おはよう、母さん。昨夜内臓が変わった事が分かったから、身体能力も確認しようと思って」
母さんと別れて庭に出る。柔軟をしてみた所、男の時と変わらないと感じた。続いてランニングに移る。まずは軽く庭を走り、重心の違いや走り方を確認する。
一般的に男性は肩から、女性は腰から歩き出すそうだ。同じように歩いていても動作の起点が違うので性別を誤魔化そうとしても専門家にはすぐバレるらしい。
これは前世で腰を壊した時に歩き方をあれこれ調べて得た知識だが、こちらの世界も変わらないと思う。前世と今世の違いは、日露戦争前にダンジョンが現れスキルを使えるようになっただけなのだから。
それまでは前世と全く同じ歴史を辿っていたので、人間の骨格や動作は同じ筈だ。まあ、それを証明しろと言われても前世から生身の人を引っ張ってきて今世の人と比べなければならないので不可能なのだが。
女性の走り方にも慣れたので、いつものコースを走る。正確に測った訳では無いがいつもと変わらないペースで走れていると思う。持続力は変わっていないように感じたし、瞬発力では女性体の方が勝っているかもしれない。
内臓の大きさは変わっても鍛えた内容は反映されていると俺の中では結論付けた。まあ、念の為毎朝のルーチンは一日置きに交代でやろうと思う。
出来れば男性体で過ごしたいというのが本音だが、ダンジョン内で女性体になった時に思うように動けないという事態は避けたい。
女性体になる必要に迫られるなんて事は無いとは思うのだが、無いだろうという思い込みで危機を迎えるなんて事になるのは御免被る。
クールダウンしながら家に帰り、シャワーを浴びる。男性体に戻ってから浴びれば良かったのだが、ついそのまま浴びてしまったので髪を乾かすのに手間がかかる。
いや、待てよ。女性体でかいた汗などはそのまま男性体になったらどうなるのだろうか。まだ女性体になった時に付いたままなのか、男性体に引き継がれるのか。
しょうもない疑問だと我ながら思うのだが、気になってしまったのだから仕方ない。今度検証してみるとしよう。
「優ちゃんお帰りなさい。朝御飯の支度出来てるわよ」
母さんに促され食卓につく。味噌汁に焼き鮭、生卵に焼海苔という日本人に生まれた事を感謝したくなるメニューを平らげた。




