第百四十八話
鈴木さんの来訪を受けてから数日、積極的に勧誘されるかと思いきや校内で会ったら挨拶して軽く雑談する程度となっていた。
「自画自賛するようだが、もう少し強く勧誘されると思った」
「ソロで二十階層突破する探索者なのだから勧誘されて当然よ。鈴木さんが来ないのは、時期が微妙だからだと思うわよ」
俺の疑問に林原さんがすぐに答えた。時期が微妙とはどういう事なのだろうか。
「ほら、今は各地で市町村長選挙の選挙期間だから。選挙権が無い私達には関係ないけど、大財閥の一族ともなれば支持している派閥の当落に気を配ると思うわよ」
「なるほどね。選挙か、考えた事も無かったなぁ」
俺は前世でも政治に興味があるという訳ではなく、選挙の投票用紙が配達された時に演説等で投票する候補を決めて投票する程度だった。今世ではまだ投票権が無いので気にした事すら無かったのだ。
今世の体制だが、前世同様県や市町村の長と議員は直接選挙で選ばれる。国会議員のうち衆議院も同じとなっている。
しかし国会議員の貴族院は違っていて、辞職や死亡で欠員が出ると天皇陛下の指名により任命される。華族や財閥の一族の者が指名されるのが慣例だそうだ。
首相や大臣の任命も天皇陛下が行う。前世帝国では陸軍大臣や海軍大臣が辞任した場合後任を軍が推薦し、推薦が無い場合は総辞職となっていたが今世では再度天皇陛下が指名する。
これは軍が気に入らない総理大臣を強制的に辞任させるという行為を防ぐ為だ。前世では米内光政海軍大将がそれで内閣を解散させられた。
帰りの電車の中から外を注意深く見ていると、時折駅前で演説をしているのが見えた。恐らく今までも行われていたのだろうけど、意識して見ていなかったので認識していなかったのだろう。
「選挙か。うちは今回行われないし、優はまだ投票も出来ないから気にして無くても仕方ないだろう」
夕食の席で話題にすると、父さんからもそう言われた。母さんも同意するように頷いている。
「政治に関心持ってる市民なんて少数さ。国内は安定しているし、諸外国は帝国にちょっかいを出す余力は無い」
帝国は前世の日本より安定していた。ダンジョンが空間に打ち込まれた楔のような働きをしているらしく、ダンジョン発生以降大きな地震は発生していない。
関東大震災を筆頭とした数々の地震が発生しなかった為、帝国は我が世の春を謳歌している。
「優の成績ならば、将来は官僚や政治家にもなれると思うが・・・」
「お兄ちゃんがなるなら、美しすぎる彫師よね」
舞よ、仏像彫りは趣味だから仕事にするつもりはないぞ。それに変な形容詞を付けないでほしい。
「そうそう、この間優ちゃんが彫った多聞天立像を買いたいという人が居たわよ」
「そのうち置く所がなくなりそうだし、父さんと母さんの判断で譲ってしまって構わないからね」
神仏の像を彫っていると心が安らぐのは神により転生させられたからなのだろうか。宇迦之御魂様にお会い出来たらそれも聞いてみよう。
「それと、前の中学校の生徒のお母様方が嘆いていたわね。優ちゃんが転校したから」
「それはあの学年主任を恨んでもらうしかないな」
あの中学校は父兄からの怒りの声が殺到しているらしい。あの事件の内容は結構詳しく流布されているようで、何故俺が処分という話になるのかと吊し上げを食らっているそうだ。
「もう転校したのだし、あの学校の事はどうでも良いよ。それより、転校初のテストに集中しないと」
二月末には期末テストが行われる。きちんと良い成績を残して同情や良いスキルだから転入出来たと言われないようにしなければ。




