第百四十五話
午前中の授業が終わり昼休み。それまでの休み時間同様俺の席の周りには人垣が出来ていた。
「滝本君は昼はどうするんだい?学食に行くならいっしょに行こう」
「誘って貰うのは有り難いが、弁当を持ってきているんだ」
この学園には私立だけあって立派な学食がある。ホームページで見た情報だが、メニューも充実していて美味しそうなメニューだった。
うちの場合は母さんが作ってくれるお弁当があるので利用する機会はほぼ無さそうだ。
「それじゃあ一緒に食べても良いかな?」
「私も良い?」
断る理由もないので了承すると、弁当持参組の生徒が近くに机を移動させて各々弁当を開く。俺が弁当を開くと良い匂いがたちこめた。
「うわっ、滝本君のお弁当、凄く良い匂い」
「唐揚げにミニハンバーグに卵焼き。メニューは普通よね」
確かにメニューは普通だが、母さんの愛情が籠もっている上に素材も違う。唐揚げは定番の夫婦鶏だし、ハンバーグはオークと突撃牛の合い挽きだ。
これを市販されている物を購入して作ろうとしたら、結構な金額を必要とするだろう。うちならば原価ゼロ円という超お値打ち価格で使用できるが。
「母さんの腕が良いからね。毎日美味しい食事を作ってくれて感謝してもしきれないよ」
欲しそうな目で見られているが、構わず食べ始めた。流石に今日会ったばかりの相手に分けてくれと言う奴は居なかった。
お弁当を食べ終わりまた質問攻めになるかと思ったが、皆は何かを言いたそうにしているが言い出さない。
「もしかして、こんな中途半端な時に転校してきた理由を聞きたいのかな?」
これまでの質問で転校の理由を聞かれる事はなかった。事情がある事など誰もが察しているだろうから、聞いても良いものか躊躇していたのだろう。
しかし、一通り質問をして最も聞きたい物が残った。なので聞きたいが、聞いて不愉快にさせるのは気まずくなると思ったのだろう。
「年明けにちょっと事件に巻き込まれてね。前の学校が理不尽な処分を下す方向になったから、家族が怒ってそこに見切りをつけたのさ」
戦った俺が巻き込まれたというとちょっと違うが、自分から好んで起こした訳でもないのでそう言った。
「正月って、ネットで話題になった奴かな?」
「もしかして、武器持った集団に襲われたって奴か。滝本君は襲われたんだよな。ネットを見る限りでは悪くないだろうに、何で処分になるんだ?」
マスコミでは報道されなかった事件だが、ネット上では結構話題になったらしい。みんな知っていたようで、何故俺が処分を受けるのかと憤慨している。
「侮辱されても言い返さずに耐えていれば、あんな事にはならなかった。だから俺が悪いという事らしい。更に内申の記載で脅してきた」
「何だそりゃ。そんな巫山戯た学校あるのかよ」
「あるから滝本君は転校してきたのよね。それは半端な時期でも逃げ出したくなるわ」
何をされても被害者はただ我慢して受け入れろと言っている訳だからな。そんな学校ではいじめ等があっても対処せずに揉み消すだろうと容易に想像がつく。
「この話、他の人に話しても大丈夫?」
「構わないよ、本当の事だし録音もあるからね。疑われても本当の事だと簡単に証明できるから」
この話は生徒達のSNSにより瞬く間に学園内に広まった。下校時には面識のない生徒から同情の声を掛けられた程だ。
初日に転校の理由を明確にした事により、変な憶測や噂が広まる事は無くなった。同情される立場になった為、変にちょっかいを出してくる奴も多分居ないだろう。
好調な滑り出しに俺は内心でほっと胸を撫で下ろすのだった。




