第百四十四話
「では滝本君に質問したい奴は・・・林原」
「去年の夏頃だけど、滝本君THKの探索者特番で映ってませんでした?」
先生の指名されて林原という女子は、あの番組の短いシーンを覚えていたようだ。別段隠す必要もないし素直に答える事にする。
「映りました。その通り見た目は華奢な上にソロなので、鴨に出来ると侮られたようです」
「やっぱり・・・ありがとうございます」
俺が探索者として活動していて、しかもソロだと知って教室内はまたざわめいた。しかしすぐに別の生徒が指名されて質問が続く。
「探索者をやっていてしかもソロだというのなら、かなり使える戦闘系スキルを持っているのかな?」
「いえ、俺のスキルは戦闘系スキルじゃありません。しかし戦闘にかなり役立つスキルですよ」
質問した生徒も他の生徒も、俺の答えの意味が分からず騒然とする。戦闘に役立つなら戦闘系スキルに分類されるのが当り前だからだ。
「それ、どういう意味なんだ?さっぱり訳が分からない!」
「滝本君、言葉では君のスキルの凄さは伝わらないだろう。実演してやる事は出来るかな?」
鈴置先生は俺のスキルを知っているようだ。まあ、担任の教師が生徒のスキルを把握していなかったら何かあった時に対処出来ないから当然か。
「構いませんよ。これが俺のスキル、着せ替え人形です」
俺はスキルを発動し、ジャージに落とし亀の大盾を装備した姿に変わる。一瞬で衣服が変わり大盾を手にした俺に生徒たちは絶句し、教室内は静寂に包まれた。
「このスキルは着せ替え人形に着せた装備と好きな時に入れ替えられます。なので武装を瞬時に切り替える事が出来るのです。このようにね」
次いで双剣を装備した姿も披露する。誰からも反応が無いので制服姿に戻す。そこで再起動した先生から質問がきた。
「それはダンジョンの中、戦闘中でも武装を変えられるという事だよね?」
「その通りです。大盾で敵の攻撃を防ぎ、双剣で反撃する。それが俺の戦闘スタイルなんです」
答えを聞いた先生が、こりゃ本家が確保に動く筈だと呟いた。ダンジョン素材で大きくなった財閥だけに、優秀な探索者を取り込もうという事だろう。
「そろそろ1時間目の時間だ。他に質問したい奴は昼休みや放課後に本人に聞くように。滝本君の席はあの空いている席だ」
呆然としている生徒の間を通り、たった一つの空席の向かう。一番後ろの席なので授業中は他の生徒から見られずに済むのはありがたい。
「それではホームルームを終わりにする。日直、号令を」
日直の号令で起立して礼をし、先生は教室から出ていった。直ぐ様前の席の女生徒が振り返り話しかけてきた。
「あのテレビ見て綺麗な子だと思ってたの。まさか同じ学校に転入してくるとは思わなかったわ。あっ、私は林原よ」
「さっき初めに質問してくれたよね。改めまして、滝本です」
林原さんはあの番組を見て俺を気に入っていたらしい。その感想を次から次へと語るのだが、その勢いが凄くて口を挟めない。
そうこうしている内に一時間目の数学を担当する先生が教室に入ってきた。林原さんは名残惜しそうに前を向いたが、俺は正直ほっとした。
その後、休み時間になる度にクラスメートの質問攻めにあう事となった。だがそれは転入生なら受ける洗礼のようなものだ。明日以降は下火になるに違いない。
この時の俺はそう楽観的に考えていたのだった。




