第百四十三話
「優、舞、おめでとう」
「おめでとう、優ちゃん、舞ちゃん」
あれから時は進み二月に入った。面接と試験を無事にこなし、ベルウッド学園から合格の知らせが届いた。
舞も入学試験に無事合格し、俺は明日から舞は四月から私立ベルウッド学園の生徒となる。俺か舞、どちらかだけ受かったらどうしようかと思っていたが、要らぬ心配に終わってほっとしている。
あれからダンジョンの攻略は進めていない。安全に二十二階層に進出するには二泊する必要があるが、その言い訳を思い付かないからだ。
何の根拠も無く安全に泊まれると言っても丸で説得力が無いし、玉藻や迷い家の事を打ち明けるのは時期尚早だろう。
母さんが腕を振るった料理でお祝いをした翌日、新品の制服を身に纏い電車に乗り込む。ラッシュには前世で慣れていた筈だが、かなりきつく感じた。
学園までの道を歩く。道中、ベルウッド学園の制服を着た男女が同じ方向に向かって歩いているのが見える。
「おい、あいつ何で男子の制服を着てるんだ?」
「男装の麗人・・・アリよりのアリ!」
俺を見てボソボソと話している声が聞こえてきた。前の学校では周知の事実だったが、ここでは俺の事を知る者はいない。
「あんな格好良い人、うちに居た?あの色は二年生よね?」
「居なかったと思うけど・・・でも、何か見た覚えがあるような気がするわ」
ベルウッド学園の制服は男女共にブレザータイプなのだが、胸に付けられたエンブレムの縁取りの色で学年がわかるようになっている。
注目を集めながらも歩き続けて学園に到着した。事前に指定されていた下駄箱に靴を入れ、持ってきた上靴に履き替える。
転入するクラスも知らされているが、初日なので職員室に向かう。
「おはようございます。転入してきた滝本です」
「おはよう。俺が君のクラスの担任となる鈴置だ。少しそこで待っていてくれ」
男性教師の指示に従い職員室の隅で待つ。上の立場らしい教師が連絡事項をいくつか話し、始業のチャイムが鳴った。
「待たせたな、それじゃあ行こうか」
鈴置先生に連れられて校舎を歩く。通り過ぎる教室に居た生徒の何人かは俺に気付きこちらを見ていたがそのまま歩く。
「この時期に転入なんて珍しいなんて物じゃないからな。注目されても仕方ない」
「ですね。どう考えても訳アリですから」
この学園は一階に職員室や事務室、理科室等の部屋があり、二階から四階が生徒の教室になっている。二階が三年生、三階が二年生、四階が一年生に割り振られていた。
「ここが一組の教室だ。呼んだら入って来てくれ」
「わかりました」
所属するクラスは前の学校と同じく二年一組となった。先生が中に入り、日直が号令をかける声が聞こえる。
「一つ席が増えてるから察してる奴も居るだろうが、今日から転入生が来る事になった。入りなさい」
呼ばれたので扉を開けて教室に入る。少しざわついたがすぐに静かになった。
「今日からクラスの一員となる滝本優君だ。あと二ヶ月でクラス替えだが、それまで仲良くするように。滝本君、自己紹介を」
「埼玉の市立中学から転入してきました滝本優です。体の線が細いのは、筋肉量が増えずに密度が高くなる体質なので見かけよりは力があります」
そこはちゃんと説明しておかないと、勘違いしてちょっかい出してくる奴が居そうだからな。それでもマウント取ろうとしてくるなら、力を示して黙らせる。
さて、どんな反応をしてくるやら。好奇心むき出しの奴とか居るし、変な事にならなければ良いけど。




