第百四十一話
ダンジョンから帰ってきた翌日、いつも代理に来てもらっている人に受付けを任せた母さんが中学校に行った。
学校側からきちんと話をしたいとの要望があったらしいが、母さんは俺が学校に置いたままにしてある物を回収するのが目的だと言っていた。
「お話にならないわ。あの学年主任、よく教師を続けてきたわね。あれを主任に据える学校側もどうかと思うわ」
帰ってきた母さんは怒りを通り越して呆れていた。一体どんな会話がされたのやら。
「俺、あの学年主任に恨まれるような事したっけな?」
母さんはしっかりとボイスレコーダーで全てを録音していたので、それを聞かせてもらった。学年主任の俺に対するヘイトが異常なのだが。
「どうせ下らない逆恨みよ。もう関わる事も無いのだし忘れなさい」
「そうだね。母さん、ありがとうね」
代理の人は昼まで頼んでいるので、母さんは午後から仕事に復帰する。まだ時間があるので昼食を一緒に作る事にした。
「夕食に優ちゃんが貰ってきたお米を使いたいから、後で精米しておいてくれる?」
「了解。全部精米して良いよね」
玉葱を切りながら答える。今日の昼までは昨日炊いていたご飯があったので、あのお米を使うのは今日の夕食からなのだ。
「お願いね。このお肉といいあのお野菜といい、優ちゃんが持って帰る食材は美味しいのよね」
「食材も美味しいかもしれないけど、母さんの料理の腕が良いから美味しくなるんだよ」
「そんなに褒めても牛丼くらいしか出ないわよ」
という訳で、今日の昼食は突撃牛の牛丼です。午前の診療を終えた父さんと三人でいただいた。
午後は教科書を読んで自習する。歴史が厄介で、途中まで前世と同じなので混同してしまいそうになる。
お米を精米していると舞が帰ってきた。ランドセルを部屋に置くと、台所に来て俺の隣で精米されるのを待っている。
「このお米、ツヤツヤしていて美味しそうね」
「そうだな、多分美味しいと思うぞ」
お米を研ぎながら可愛い妹となんてことない会話に興じる。ありふれたひと時だけど、貴重なひと時だ。
炊いたお米は美味しかった。突撃牛製牛丼の美味しさも相俟って、全員がお代わりをしてしまった。
「優、舞、まだ通いたい中学校の希望は無いか?」
「お兄ちゃんと一緒ならどこでも良いわ。あっ、どこでもと言ったけど、あの中学校だけはダメね」
「俺も特に希望は無いかな」
前世でも中学校は公立、高校は近くで自転車通学できるからという基準で選んだ。特に学校に拘りなんて持っていない。
「ではここなんかどうだ?財閥が運営する私立で中高一貫校なんだが」
「編入出来るなら構わないけど、来年度から?それともすぐに転入?」
あと二ヶ月程で三年生に進級する。きりの良い来年度から編入の方が学校側も楽だろうか。
「それは問い合わせしてみてだな。すぐに編入出来るなら、してしまえばあの学校との縁が切れる」
「お母さんもあの学校とは早く縁を切りたいわ。あれは話が通じる相手ではないわね」
舞も特に異存は無いということで、父さんが提示した学校、私立ベルウッド学園に転入の打診をする事となった。
「受ける学校が決まったのは良いが、まだ動けん」
「美味しかったから、つい食べすぎたなぁ」
俺達は家族会議が終わっても誰もリビングから動けなかったのだった。
 




