第十四話
「これか、これを付けたいが為に女性体なんてスキルを付けたのか」
ステータス画面には予想の遥か斜め上を行く内容が記載されていた。まず、名前が変化している。滝本優から玉藻という名になっていた。
「種族も妖狐だし、玉藻という名前は鉄板だけどなぁ」
まさか自分が妖狐になってその名前を使う事になろうとは。つくづく人生では何が起こるか分からない物である。
そして問題なのはスキルだ。三つのスキルが記載されていて、全てが違う物になっている。一つ目のスキル、狐火は良い。妖狐にはお約束のスキルだし、燃やす物を指定出来るので使い勝手が良さそうだ。
二つ目のスキル、空歩もスキル物の物語ではよくあるスキルだ。空中を歩けるので狐火と組み合わせて安全な空中から焼き放題なんて事も出来そうだ。
問題は三つ目のスキル、迷い家だ。亜空間にある迷い家に自由に出入りでき、指定した者も連れ込めるというぶっ壊れスキルとなっている。
この世界のダンジョン探索が進まない理由は二つ。深く潜るには食料や飲料を持っていく必要があるという事と、安全地帯が無いので休憩をまともに取れないからだ。
しかし、迷い家はそれを完全に克服してしまう。食料は迷い家に備蓄可能だし、飲料は水道が完備されているので問題ない。
休憩も休むどころか宿泊出来るので襲撃を恐れずに熟睡出来る。帰りの体力を気にしなくても良いし、戦利品も迷い家に置く事で全て持ち帰る事が出来る。
このスキルを使えばダンジョンの攻略は飛躍的に進むだろう。帰りの心配をしなくても良いのだから、純粋に勝てるギリギリの層まで降りる事が可能になるのだ。
しかし、このスキルを考え無しに公表すれば大規模な争奪戦となるだろう。俺とパーティーを組めば世界最深記録を塗り替えられる事はほぼ確実。何処だって欲しがるだろう。
そうなった時、俺ならば何とか切り抜けられる。ヘラクレス症候群で得た力もあるし、いざとなれば迷い家に逃げ込めば誰も手出しが出来なくなる。
しかし、もし俺が逃げれば家族が人質に取られる可能性が高い。今の国力は所属する探索者の力で表される。最も使われるのが転生者の数だ。
転生者一人を確保する為なら各国は手段を選ばない。前代未聞の能力を持つ俺を得るためならば、外道な手段だろうと平気で使われるだろう。
「少なくとも、玉藻と滝本優は別人とした方が良いだろうな」
平穏に暮らす事だけを考えるならば、玉藻は封印し滝本優としてだけダンジョンに潜るのが最適解だろう。だけど、俺は女神様と約束をした。
それを半ば反故にするような真似はしたくない。玉藻のスキルを使えば、ダンジョンの攻略が進む事は疑いようがないのだから。
ならば玉藻と滝本優を別人として、玉藻争奪戦から滝本家を切り離すしかない。天涯孤独の謎人物という事にすれば、玉藻に直接接触するしかなくなるのだ。




