第百三十九話
翌朝、迷い家を出て二十階層への渦に向かう。途中三回影兎に遭遇したが、兎が影から出た瞬間に狐火を置けば勝手に焼かれてくれる。
流石に一撃では沈まなかったが、三度焼いてやれば魔石へと変化してくれた。影兎は玉藻で焼いた方が楽に倒せるようだ。
二十階層への渦に飛び込む前に妖狐化を解除する。ブロンズゴーレムに狐火はあまり効果がないだろうと判断しての選択だ。
十九階層への渦に着くまでに二度の戦闘を熟した。素早さもある上に力も強いブロンズゴーレムの相手は結構疲れる。
それでも休まず戻り、昼過ぎに地上に戻る事が出来た。男に戻り自販機でコーヒーを買って一息入れる。
ベンチで休憩の後、魔石を売り払う。数個の大きな魔石に加え、更に大きな魔石が混ざっている事に気付いた受付嬢さんが少し震えた声で聞いてきた。
「この魔石、結構大きいですけどもしかして・・・」
「数個あるのがブロンズゴーレム、一個だけなのが影兎です」
ここの人達は俺がソロで潜っていると知っている。その俺が二十階層を越えて魔石を取ってきたという事実に受付嬢さんはこめかみを揉みながら言った。
「その深さだと一泊する必要があるわよね。ソロでダンジョン内で宿泊するなんて危ないって分かってるのかしら?」
「元々十九階層までは行けましたからね。新しい武器も手に入りましたし、九階層で泊まったので危険はありませんでしたよ」
笑顔でそう答えると、受付嬢さんは何かを諦めたような顔で手続きを進めてくれた。心配してくれるのは有り難いけど、俺にその心配は無用なのです。
「これが明細ね。振込はギルドカードで良いかしら?」
「それでお願いします。ありがとうございました」
影兎の魔石が良い値段で売れたので、乱獲したら斧槍の出費も早くに取り戻せそうだ。数熟すには何泊かしないとキツイからやらないけどね。
「お兄ちゃんお帰りなさい。怪我しなかった?」
「舞、ただいま。ちゃんと無傷で帰ってきたぞ」
家に帰ると、舞も学校から帰っていて顔を見るなり抱きついてきた。ひっつき虫となった舞とリビングに移動する。
「お兄ちゃん、それは何?」
「ああ、前に野菜を買ってきただろう。そこから今度はお肉と交換でお米を貰ってきたんだ」
お米の出所は野菜と同じなので嘘ではない。それがスキル内の水田と言わないだけだ。
「あのお野菜美味しかった。お米も美味しそうだね」
「そうだな、多分美味しいと思うぞ」
実際は食べているので味を知っているのだが、帰りに貰ったという設定なので味を知らない事になる。
医院の診療が終わり居間に来た両親にも無事に帰った事とお肉と交換でお米を貰った事を話した。
「あのお野菜を作った農家さんのお米なら期待できるわね」
「あれは本当に美味しかったからな。明日早速炊いてみよう」
両親もあの野菜は気に入っていたので、お米にもかなり期待しているようだ。その期待は多分裏切らないと思う。
夕食時に今回の成果を話す。影兎は試しに一羽だけ倒した事にしておいた。
「影を移動するって、凄い魔法を使ってくるのね。お兄ちゃん、よく倒せたわね」
「俺一人しか居ないから、出てくる影が俺のしか無いから少し楽なんだ。パーティーだと誰の影から出るか分からないから苦戦するらしいけど」
これはソロだから楽になる珍しいケースだ。最も、ソロだとほぼ二十一階層にたどり着けないので真似する奴は居ないと思われる。
「少し楽とは言え、強い敵という事は変わらんだろう。明日はゆっくり休みなさい」
学校の方はまだ進展が無いようなので、父さんの言葉に従ってゆっくりするとしよう。学校はどんな対処をするのかな。




