第百三十六話
迷い家を出て妖狐化を解除し、二十階層に入る。ここの敵はブロンズゴーレム。十七階層のゴーレムの上位互換だ。
金属製の堅いボディに加え、力も強くなり下手な人間よりも速い俊敏さを備えている。その為ゴーレムと違い逃げてばかりだとスタンピードの危険がある為、きちんと倒す事を求められる。
平原のフィールドをスマホにインストールされた地図で確認し二十一階層への最短ルートを辿る。すぐに赤銅色の巨体が駈けて来るのが見えた。
スマホを腰のケースにしまい戦闘態勢を取る。ブロンズゴーレムは初手で右ストレートを繰り出してきた。
ゴーレム系はパンチに頼る傾向があるようだ。まあ、躱されてもそこから掴みにいくなり腕を横に薙ぐなりと攻撃を繋げやすいから合理的だ。
俺もそれは予測していたので、遠心力を加えた斧槍を叩きつける。耳障りな金属音が響き、耳を塞ぎたくなる。
最初の一手はこちらの勝ちだった。ブロンズゴーレムの右拳にはヒビが入り、もう一撃加えれば砕く事が出来そうだ。
しかしブロンズゴーレムは怯む事無く左腕で反撃を繰り出してきた。振るわれた拳を右にステップして躱し、肘の関節に振りかぶった斧槍を振り下ろす。
またもや大きな金属音が響き、ブロンズゴーレムの左腕は肘から先が地面に落下した。これにはブロンズゴーレムも驚いたのか、一歩後退る。
そんな好機を見逃す筈もなく、反時計回りに回転した俺は斧槍の柄を伸ばし勢いの付いた斧部分をブロンズゴーレムの胴体にめり込ませた。
「くっ、しまった!」
斧槍は十七階層のゴーレムの胴体を粉砕した。俺は同じように斧槍を叩きつけたが、ブロンズゴーレムの堅さにより両断する事は出来なかった。
斧槍を抜こうとするが、食い込んだ斧槍が抜けないよう左の上腕で抑え込むブロンズゴーレム。流石に力比べでは分が悪い。更に体を捻り遠心力で俺を吹き飛ばそうとしてきた。俺は咄嗟に斧槍を元の長さに戻す。
普通なら先端がこちらに向かって短くなるのだが、今は斧部分がブロンズゴーレムに抑えられている。その為、逆に俺が先端に引かれる形となった。
流石にこれは予想出来なかったのだろう。狼狽したブロンズゴーレムは一瞬動きを止めた。俺は斧槍から手を離し、付いた勢いそのままにブロンズゴーレムの顔面目掛けて突っ込んだ。
次の瞬間、三度金属音が周囲に響きブロンズゴーレムはその巨体を後ろ向きに倒した。その後動く事はなく光に包まれ魔石へと変化したのだった。
「戦闘系スキルじゃないのに役立ち過ぎだろ、着せ替え人形」
俺は着せ替え人形を発動し、落とし亀の大盾を装備。ブロンズゴーレムの顔面に思い切りぶち当てたのだ。
左右の腕へのダメージと胴への一撃。それに顔面へのダイレクトアタックで何とか体力を削り切る事が出来た。
「斧槍を抜けなくなるとは思わなかった。ここまで順調だったから慢心していたのかもしれない。反省しないとな」
初手の攻撃で拳を砕けなかった。考えてみれば、拳を砕けないのに分厚い胴体を切り裂く事なんて不可能に決まっている。
しかし、腕を落とせた事で深く考えずにいけると思ってしまった。左腕を落としたのは脆い関節に当たったからなのに。
「これは、俺も双剣の元になった剣を折った探索者を笑えないな」
斧槍の方が硬かったから折れなかっただけの事。もっとクレバーに戦わなければ、最悪命を落とす事になる。
着せ替え人形で装備を戻しながら反省した俺は、次のブロンズゴーレムを探す為に歩き出した。




