第百三十五話
「それじゃあ行ってきます」
「くれぐれも無理はしないでね、行ってらっしゃい」
関中佐から士官学校への進学を打診された翌日、母さんに見送られていつものダンジョンに向かった。潜る階層が二十を越えるので泊りがけになると言っておいた。
ソロなのに大丈夫かと心配されたが、九階層でテントを張るので安全だと説明しておいた。普通のダンジョンだと他の探索者による犯罪行為が怖いのだが、過疎ダンジョンなのでその心配はほぼ無い。
まあ、それは家族を安心させる為の口実で、迷い家に泊まるので安全な事この上無いのだが。安心して泊まれるだけでなく飲料水や野菜まで無限に補充出来る迷い家はチート過ぎる。
相変わらず人が居ない受け付けを通りダンジョンに入る。ギルドの人ももう慣れたもので、手ぶらでダンジョンに入る俺に声もかけない。
一階層に降りて女性体を発動する。厚手の生地のシャツにGパンという、動きやすい服装に双剣を装備した姿となった。
今回は装備を全て女性体の方に集めている。これは男に変わる時のラグを考慮した結果だ。斧槍の能力を十全に活かすなら女性体で潜るのがベストだろう。
勝手知ったるダンジョンをサクサクと進んでいく。孤独狼や奇襲ヘビ程度では障害にもならない。但し七階層だけは玉藻となって進んで行った。臭いゴブリンは狐火で遠距離から焼くに限る。
そして十七階層に到着。ここで双剣から斧槍に持ち替える。頑丈なゴーレム相手に試験運転してみたい。
最短ルートから外れてゴーレムを探す。程なくして一体のゴーレムを見つけた。向こうもこちらを認識したようで駆け寄って来る。
しかし鈍重なゴーレムの足では悲しい程時間がかかる。なので俺からも駆け寄り斧槍を俺の身長位に伸ばした。
もうすぐゴーレムの間合いに入るという所で勢いを乗せた右ストレートを繰り出すゴーレム。俺は走ってきた勢いを回転力に変換して左に一回転し、斧槍に遠心力を加える。
ゴーレムの拳に真正面から当たった斧槍は頑丈な岩をいとも簡単に砕いてしまった。ゴーレムの右腕は肘から先が無くなっている。
甘く見ていた敵に腕を粉砕されたのがショックだったのか、戦意を喪失したじろぐゴーレム。その隙に俺はその場で更に回転する。
それを見て危険を察知したのか、ゴーレムは背中を見せて逃げ出そうとした。しかし時既に遅く、長く伸びた斧槍の斧部分がゴーレムの胴体に直撃する。
高速で叩きつけた斧槍は恐ろしいまでの破壊力を発揮し、太いゴーレムの胴体を切り裂いて真っ二つにしてしまった。
当然耐えられる筈もなく、光を発し魔石へと変化した。正月は人が相手で舞にスプラッターなシーンを見せたくなかったので手加減していたが、期待以上の破壊力である。
その後、十八階層のスタンスラッグは華麗に無視を決め込み、十九階層の夫婦鶏は双剣で対処した。
最近は鶏肉目当てで玉藻さんの狐火を使い乱獲していたが、普通に双剣で相手をすると手古摺るし神経を使う。
万全を期す為に二十階層に行く渦の手前で最短ルートから外れ、迷い家で休む事にした。ついでに昼ご飯も食べてゆっくりしよう。
居間にリュックを置いて母さんに作って貰った弁当を取り出す。その半分を別の皿に移して持ち外に出た。
「量が少ないですがお納め下さい。今年もよろしくお願いいたします」
母さんの特製稲荷寿司を奉納し、畑からトマトを収穫して戻る。嬉しそうな感情が伝わってきたが、稲荷寿司が好物だったのだろうか。
残りの稲荷寿司とトマトを食べて食休みをとる。この先は初の二十階層だ。負けないとは思うが気を引き締めて行こう。




