第百三十四話
「ええ、優は当面休ませます。何かしらの処罰を受けるようですから、最低でもそれが決まるまで登校はさせません」
翌朝、父さんが怒りを抑えながら学校に電話した。電話を受けた教師はかなり慌てているようだ。かすかに苦しい釈明が聞こえてくる。
「学校への連絡はしておいた。優、転校先はどこが良い?」
「特に希望は無いかな。通うのも一年と少しだし。ああ、舞と同じ所が良いよ」
徒歩圏内に私立中学は存在しない為、必然的に電車通学となる。ならば朝だけでも舞と共に通学して良からぬ事を目論む野郎から守るのが兄の勤めというものだ。
父さんと母さんは医院の始業準備に行って一人になったので、自分の部屋に戻る。俺も関中佐に電話しなければ。
「もしもし、滝本です。その節はお世話になりました」
「おおっ、滝本君。例の件、後処理は完全に終わったから安心してくれ」
中佐の声は心なしか嬉しそうに聞こえる。あの件で多忙となった筈なのだが、何か良いことがあったのだろうか。
「すいません、ちょっとお伺いしたいのですが・・・」
俺は事の次第を話して中退若しくは転校するつもりだと打ち明けた。転校となる確率が高いと思うが、こんな中途半端な時期に転校できるのだろうか?
前世でも転校なんてやった事が無かった為、その辺の手続きの関する知識が全く無い。なので中退も視野に入れている。
「公立の中学で中退なんてならない筈だ。これから一日も登校せずに居ても卒業資格は得られるよ。しかし、随分巫山戯た事を言う教師だな」
関中佐から見ても俺を罰するのは不当な行為なようだ。身内以外の人がそう言うのだから、俺達の憤りは間違えていないな。
「滝本君、進路を変えるつもりはないか?俺としては探索者専門学校ではなく陸軍士官学校に入って欲しい」
「士官学校に、ですか?」
士官学校とは、部隊を指揮する立場の人間を養成する軍の学校だ。昔は幼年学校と合わせて四年となっていたが、高校と同じく三年間学ぶようになっている。
「君が前線に出たいと希望しているのは承知している。実際に佐官でもダンジョン攻略部隊の者は居るから安心してくれ」
「そうなんですね、どうも偉くなるとデスクワークに回るというイメージがありまして」
士官学校を出たエリートというと前線には出ずに後ろからあれこれ命令を出すというイメージがあったが、どうやらそれは間違ったイメージらしい。
「それで、転校する学校は決めているのかな?」
「それはこれからです。それを家族会議で決めたのが昨夜でしたから」
「そうか。十分に検討して良い学校を選んでくれ」
最終学歴が中学卒業でも軍に採用してもらえるか聞こうと思ったのに、まさか士官学校を斡旋されるとは思わなかった。
そこまで買ってくれているというのは嬉しい反面怖くもある。掛けられた期待を裏切るような事にだけはなりたくない。
取り敢えず、どう転んでも軍に入る事は出来そうだ。途中の学歴はどうなろうとそれさえ達成出来れば些細な事である。
一部の教師は俺を良い高校に進学させて学校の評価を高めるという目論見をしていたようだが、完全にその芽は摘まれる事になる。
俺を利用したいのか貶めたいのか、教師によって言動がバラバラだ。学校はどこもそんな感じなのだろうか。




