第百三十三話 陸軍情報部にて
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「改めて見ると凄いな、これ」
「相手は早さ強化スキル持ちだろ?完全に翻弄してるじゃないか」
年始休みが明けた四日から、情報部の部員達は上司により忙しく動く羽目になった。二日に起きた事件の事後処理の為である。
戦闘系スキルを持つ軍人が非戦闘系スキル持ちの中学生と模擬戦をする、そこまでなら良かった。しかし負けた上に大人数をけしかけ、それも撃退されると刃引きされていない剣で襲いかかるという暴挙に出た。
何とかマスコミは抑えたもののSNSを完全に封じ込める事は出来ず、その火消しに多忙を極めていたのだ。
それも目処が立ち、加害者達が撮影していた動画を検証した部員が発した声がそれである。
「これは予想以上だな。中佐が拘る訳だ」
「ああ、これだけ可愛いとはな。中佐が部下にして上司権限であんな事やこんな事をしようと執着するのも無理はない」
「ちょっと待てえぃ!俺は純粋に優君の能力に惚れ込んでスカウトしようとしてるんだ!」
部員たちの会話が妙な方向に行きそうになった事に危機感を募らせた関中佐が叫ぶ。しかし部員たちは耳を貸そうとしない。
「こりゃ広報部が放っておかんだろ。絶対に凄い反響が来るぞ」
「男の姿でTHKに映った時は凄かったらしいからな。それに加えて女性体のこの姿だ。中佐が手を付ける前に確保しようと動きかねん」
好き放題言っている部下に関中佐は頭を抱えて机に伏せる。からかっている事は中佐も承知の上なので、真剣に止めようとはしなかった。
「まあ、冗談はここまでとして、本当に凄いスキルだな」
「ああ。大盾で攻撃を防ぎ、弾き飛ばす。遠距離の相手には伸びる斧槍で対応し、手数が必要なら双剣に持ち替える」
「その双剣も片手半剣が二本だろ、よく扱えるな」
中佐で遊ぶのに飽きたのか、部員達は優の戦闘力について検討しだした。なので中佐もそれに加わりだす。
「肝は武器を持ち歩く必要が無いという点だな。ダンジョン探索で重量を気にせず持ち込めるし、要人の護衛でも効果を発揮する」
「そうか、手ぶらと見せかけて有事の際には大盾で要人を守るという手が使える!」
本人がダンジョン攻略を望んでいる以上、要人護衛は不本意な任務となるだろう。しかし、軍人となれば上からの命令には従わねばならない。
自由に女性の姿になれるのも大きな利点だ。護衛対象が女性で男性が入れない場所に行く場合でも守りに就く事が出来る。
極端な話、武器防具を持ち込めない女湯の中でさえ瞬時に大盾や斧槍で攻防を熟す事が可能となる。少々発生する問題に目を瞑れば、の話だが。
「でも、ダンジョン攻略が望みでこの実力なら特務攻略隊に持っていかれるのでは?」
特務攻略隊とは、とあるダンジョンの間引きと攻略を専門に行うエリート部隊であった。有効な戦闘系スキルを持つなんて最低条件に過ぎす、高い戦闘力を要求される。
「かもな。だが、滝本君のスキルは非戦闘系スキルだ。プライドの高い奴らが受け入れない可能性も高いだろう」
軍内から選ばれた隊員だけに、選民思想が根づき天狗になっているのだ。到達階層の最深記録を持つ部隊だけに扱いに困る部隊となっていた。
「一般の攻略部隊で奴らの記録を抜いてくれたら爽快なんだがな」
「支援部隊の質と量が段違いだからな。強さよりも補給と休息が鍵になっている現状、あの部隊以上の環境を作れないから難しいよ」
部員達の話が優からダンジョンに移りかけたその時、関中佐のスマホが着信した事を知らせる音楽が流れる。
「おおっ、滝本君。例の件、後処理は完全に終わったから安心してくれ」
絶妙なタイミングで話題の主である優からかかってきた電話。それが情報部にとって朗報なのか凶報なのか。
どちらにしても彼らの仕事が増える事となるのは間違いなさそうなのだった。




