第百三十二話
家に帰った俺は、昨日に続き趣味に没頭する事にした。金剛力士像の吽形を勢いに任せて彫っていく。
「お兄ちゃん、昨日に続いて今日も?」
帰ってきた舞が仏像を彫る俺を見るなり聞いてきたので、学校でのやり取りを教える。
「納得だわ。吽形じゃなく阿形で良いのに。お兄ちゃんは何も悪くないんだから!お母さんにも言ってくるね!」
そう言い残して舞は俺の部屋から飛び出して行った。受け付けでその話をするとなると、すぐご近所中に広まるだろう。
「優ちゃん、舞ちゃんからも聞いたけど詳しく聞かせてくれるかしら?」
夕食の席で職員室で事件の事を聞かれ答えた事、教師達の反応をそのまま伝えた。
「優、確認するが優の希望は軍に入りダンジョンを攻略する事だよな?」
「うん。その為に探索者専門学校で知識を蓄えてから軍に応募しようと思ってた」
優れた戦闘系スキルを授かっていれば専門学校を出ていなくても軍からスカウトされたりするが、俺のスキルは実質はどうあれ非戦闘系スキルに分類される。なので軍に入るなら探索者専門学校に入るのは必要なプロセスだった。
「だが、優はこの間憲兵隊中尉と情報部中佐からスカウトを受けた。無理して学校に通う必要性は特に無いな?」
「そうだね。中学校中退・・・か、卒業で入隊出来るかどうかは分からないから要確認だけど」
この世界でも中学校卒業までは義務教育と定められている。なので一年ちょい不登校となった場合中退になるのか無理矢理卒業となるのかは不明だ。
「それ、関中佐に聞いておきなさい。それと学校は行かなくて良い。もし学校から連絡が来ても無視しなさい。父さんと母さんで対応する」
「そうね。不登校でも良いし、私立に転校という手もあるわ。今の学校に拘る理由は無いし、優ちゃんはやりたいようにやりなさい」
父さんと母さん、かなり怒っていらっしゃる。気を操るスキルなんて持っていない筈なのに、怒りのオーラが凄い勢いで吹き出しているのが目に見えるようだ。
「ねえ、お父さん。私も私立中学を受験しちゃダメかな?」
「ダメなんて言う訳無いだろう。父さんは引っ越しまで視野に入れてるからな」
父さん、舞をあの中学に入れるつもりは毛頭無いな。随分と嫌われた物である。
「じゃあ、お言葉に甘えてダンジョンに潜るかな。期せずして斧槍も実戦で使えたし、そのまま下まで潜れそうだ」
流石に二十階層を越えたら日帰りはキツくなる。なので攻略を進めるのは春休みかと思っていたから、前倒し出来るのは少し嬉しい。
「じゃあ受ける学校を選んで勉強しないと!」
「舞ならどこの私立でも受かるから大丈夫さ」
遊びたい盛りの小学生なのに、ちゃんと予習復習をしている舞なら入試もクリアできるだろう。面接も素のままで受かると断言できる。
注・優君の個人的な意見です。お兄ちゃんフィルターがかかっているか否かは判断出来ません。
「そうだ、舞の方は大丈夫だったのか?」
「うん、やっぱり事情を聞かれたけど皆が大変だったねって言ってくれた」
舞は俺みたいに挑発した訳でも戦闘した訳でもない。一方的に襲われた被害者だ。それで非難するような奴が居たらちょっとお話(物理)をしないといけない。
普通に学校に通いながらダンジョン攻略していこうと思っていたのに、何でこうなるのやら。一度お祓いでも受けた方が良いのかな。
作者「優君も舞ちゃんも、何事も無く公立中学を卒業する予定だったのに・・・何でこうなった?!」
 




