第百三十話
警察での調書作成を無事に終わらせた翌日、今日は陸軍での調書作成をしなければならないので一家で大宮基地に向かう。
駅の西口からバスを使用するのが一般的な方法だが、今日は関中佐も同席するという事で大宮駅まで迎えに来てくれる事になった。
「昨日に続き本日もお世話になります」
「いえいえ、軍の業務の為に出向いてもらうのです。これくらいどうという事はありませんよ」
改札口で合流し、互いに挨拶をする父さんと関中佐。俺達は口を開かず二人の会話に耳を傾ける。
「しかも加害者が軍の者ですからね。国を守る軍人が民間人を傷付けるなど、あってはならない事件です」
あの出来事は警察や軍が来た事で近所中に知れ渡ったらしい。しかしマスコミでは報道されておらず、広まっていないのだとか。
軍のナンバーが付いた車で基地に向かう。道沿いの民家には日の丸の旗が立てられ正月を祝っている。
「お疲れ様です中佐殿。情報部の重鎮に動いていただかなくとも我等で迎えに行きましたのに」
「多少なりとも面識のある俺が迎えに行くほうが良いだろうと判断したまでだ。少々寄り道する位手間でもない」
昨日の憲兵隊中尉と関中佐がバチバチに火花を散らす牽制を繰り広げている。情報部と憲兵隊って、仲が悪いのかな?
「あはは、中佐は滝本君を欲しがっているからね。取られないよう牽制してるんだよ。何せ、戦闘に秀でたスキル持ちは探索者をする方が儲かるから軍には入ってくれないのさ」
「ああ、それはそうですね。実際、優が持って帰る夫婦鶏の肉を換金するだけでもどれだけの収入になるか」
中佐の部下らしい人の説明に、父さんが沁み沁みと同意する。確かに、純粋に収入面だけ見ると軍の給料よりも探索者としての収入の方が多いだろう。
「その年齢で、しかもソロで夫婦鶏のレア狩りしてるんですか・・・中佐が固執するのは当然ですねぇ」
部下の人は半ば呆れたような表情で俺を見つめる。それも神様からのスキルによる恩恵です。俺が異常な訳ではありません。
その後警察と同様に会議室のような部屋で聴取が行われ、作成された調書に署名して事後処理は終了した。
「奴等が撮っていた映像を見たが、本当に見事な立ち回りだった。あれだけの力があれば探索者で成功するのは確実だろう」
「ありがとうございます。ですが、俺はダンジョンの到達階層を更新したいという夢を持っています。それを実現するなら組織力で勝る軍に所属するのが最善かと」
調書作成が終わり、お茶を飲みながらの雑談の最中。軍を希望する理由を問うてきたので素直に答える事にした。
まあ、神様の依頼という事は伏せさせてもらったが、この場で言うことではないだろう。
「これで軍での処理は終了です。恐らく刑事告発の手続きは県警の方で進んでいると思いますが、民事で損害賠償を請求しますか?」
「いえ、奴らとの縁が切れればそれで本望です。これ以上はどのような形でも関わりたくないですね」
もしも民事訴訟を起こすのならば、証拠の提供などを手配してくれるつもりだったのだろう。
その後、機嫌の良い関中佐に駅まで送ってもらい本家関連のゴタゴタは完全に終了した。部下の人達も俺に対して期待を隠さない眼差しを向けている。
「あの中佐、優の希望を聞いて凄く嬉しそうだったなぁ」
「凄く買ってくれてるみたいだからね。この縁は大事にしようと思ってるよ」
探索者の専門学校を卒業して軍に入るなら、早くても後四年も先の話。だけど、軍属として協力するなら来年の四月には中佐の下で働く事になるかもしれない。
それまで関中佐が情報部から異動しなければ助かるのだけど、こればかりはその時にならないと分からないからなぁ。




