第十三話
夕食が終わり自室に戻った俺はTシャツとスカートというラフな出で立ちに換装した。男性体に戻りたいが母さんから女性体での入浴を練習するようきつく言われている。
男性との違いをこれでもかとレクチャーされ、一緒に入って指導すると言い出した母さんを苦労して断念させたのだ。言いつけを破ればどうなることか。
・・・母さんが何度も念を押した理由を身に沁みて理解した。髪も身体も男性とは洗い方が違う。入浴する時は必ず男性体に戻ると固く心に決めた。
濡れた髪を乾かし後は寝るだけとなった時、ふとステータスをちゃんと見ていない事に気付いた。昨夜はスキルのインパクトが強かったので、つい流してしまったのだ。
もっとも、名前と種族、スキルが記載されているだけなのでじっくり見る程の物ではないのだが。スキルは確認したし、種族も獣人化スキルを使わない限り人族と表示される。
「男性体の時は女性体のスキルがあったが、女性体の時は男性体のスキルになっているのかな?」
小さな疑問を抱いた俺は確認する事にした。ステータスと念じて目の前にステータス画面を表示させる。
「えっ・・・ちょっと待とうか」
開いたステータス画面には、予想外にも程がある内容が記載されていた。名前は滝本優で種族は人族。ここまでは何も問題はない。
ヤバいのは次のスキルの項目だった。着せ替え人形は良い。男性体のスキルは無かったが、これは女性体のスキルを解除する事で男性に戻るという事だろう。
問題なのは、男性体のステータス画面に記載されていなかったスキルが表示されている事だ。その使い方も理解出来てしまったので、間違いなく俺のスキルなのだろう。
「これも多分世界初だろうな。解除も出来るみたいだし、試しに使ってみよう」
大きく深呼吸して精神を落ち着ける。姿見の前で全身を見る事が出来るように立ち、小さく問題のスキル名を唱える。
「スキル、妖狐化」
背中辺りの長さだった髪が膝下まで伸びる。服装は自動的に紅白の巫女装束へと変化した。頭頂部には黄金色をした狐耳がピンと立ち、お尻からはフサフサの尻尾が生えてユラユラと揺れている。
両手には大き目の鉄扇を持っていて、これが専用武器だと何となく理解出来た。
ステータスで見た時にスキルの効果が理解出来るのでこうなる事は知っていたが、実際に目で見るとインパクトが違う。驚きの声を飲み込んだ自分を褒めてやりたい。
防音もされていない部屋で叫び声など上げようものなら、両親と舞がすっ飛んで来るだろう。自慢ではないが、それだけ家族に愛されているという自覚はある。
「顔立ちは少しキツめか。それと胸が更に大きくなってるな。これは家族でも俺とは分からないだろう」
髪の長さが伸びている事も相俟って、かなり印象が違った美少女になっていた。自分から言わなければバレなそうだが、言うべきか言わないべきか。
「女性体の例からして、違うスキルになってそうだな。それを見てから決めるか」
もう一度ステータス画面を呼び出した俺は、叫び声を上げないよう両手で口を塞いだのだった。




