第百二十九話
本家筋の連中が警察病院と陸軍病院に連れて行かれ、現場検証も終わって一件落着・・・とはならない。
「では明日大宮の陸軍基地で聴取を行います」
「はい、必ず出頭致します」
話せる事は話したとはいえ、正式な書面を作り署名をしなければならない。なので警察や軍で再度の聴取を受ける必要がある。
「関中佐、御足労頂きありがとうございました。後日ご挨拶にお伺いさせていただきます」
「御子息は必ずやダンジョンで活躍する優秀な人材です。下らない冤罪から守るのは国益にも叶った事なのでお気になさらずに」
軍が撤収する事になり、父さんが関中佐と挨拶を交わしている。しかし随分と高い評価をしてくれる。この期待にはキッチリ応えないとな。
「では我々も行きましょう。こちらとこちらに分乗して下さい」
軍の調書作成が明日なのは、これから警察の調書作成があるからだ。野次馬の注目を浴びながらパトカーに乗る。
「へぇ、パトカーの中ってこうなってるのね」
「珍しいでしょ。そうそう乗れる物じゃないものね」
初めて乗ったパトカーに興味津々な舞。助手席の女性警官さんが少し心配そうに見守っている。襲われた事に対するトラウマが無いか気遣ってくれているのだろう。
「鎌を持ったオバサンには驚いたけど、怖くはなかったよ。お兄ちゃんが守ってくれると思ってたし守ってくれたから」
俺達の心配を察した舞が微笑む。俺には勿体ないくらいのよくできた妹だ。
「良い妹ちゃんに良いお兄ちゃんね」
「ええ、最高の妹です。舞を傷つけようとする奴は、誰であろうと俺が倒します」
助手席の女性警官さんだけでなく運転してる男性警官もほっこりした顔になり、車内が穏やかな空気に包まれる。
「でも、素人とはいえ武器を持ったあの人数を一人で倒すって凄いわねぇ」
「お兄ちゃんなら当然です。一人で夫婦鶏のお肉を沢山取ってくるんだから!」
胸を張りドヤ顔で自慢する舞。探索者じゃない人に夫婦鶏なんて言っても分からないと思うのだが。
「それって、十九階層に行かないと取れない希少なお肉よね?あれで作る唐揚げが美味しいのよねぇ。お給料日の楽しみなのよ」
女性警官さん、美味しい物を食べるのが趣味なようでダンジョンのレアドロップに関する知識も持っていました。但し食材オンリーだそうですが。
舞と女性警官さんの食べ物談義をしていると警察署に到着した。ドアロックを解除してもらいパトカーから降りる。
「優、あの警官から凄い圧を感じるが何かあったのか?」
「ああ、美味しい物を食べるのが趣味みたいで舞が散々自慢したから・・・」
うちでは恒常的に食べてる夫婦鶏だけど、狩るのもお肉を持ち帰るのも手間暇かかるから高級品なのだ。一階層で手に入る突撃豚とはお値段の桁が違う。
そんな事がありながらも、俺達は会議室のような場所に通されてもう一度事の次第を説明した。録音データという証拠もあるため調書の作成はスムーズに終了した。
「本来なら全員一緒に会議室で、なんて事無いよね」
「多分な。優が情報部の中佐と懇意にしているから、かなり忖度されていたと思う」
憲兵隊と情報部が勧誘してくる人材。自分で言うのもなんだが、軍に入れば出世は約束されるだろう。そんな人間の不興を買いたいとは警察も思わないだろうな。
「大変な三が日になっちゃってごめんなさい」
「悪いのは優じゃなく奴らだ。それに今後奴らとの縁が切れるのだから目出度いとしか言いようがない。時間も丁度良い、どこかで食事して帰ろうか」
とんだ騒動が起きた一日だったが、舞の希望でカレーの有名チェーン店で食事をして帰路についた。
あそこに行くと、毎回トッピングに迷うんだよなぁ。どれも美味しいから中々決められない。




