第百二十八話
双方の身元を確認し終わったので事情聴取が始まった。俺達はそれぞれ離れた所に移動させられ、個別に聴取を受ける。
これは口裏を合わせて虚偽の証言をされないようにする定番の手法で、本家筋の連中も気絶していない者は同じようにされている。
俺はありのままを正直に話した。こちらに疚しい事は一つもないので隠す事などない。
「このレコーダーにここに来てからの会話が入っています。これを聞けば裏付けが出来ると思いますよ」
「随分と周到だな?」
「父さんから碌でもない奴らだと聞いていたので、トラブルになった時の保険をかけていたんですよ」
奴らは俺が一方的に武器を振るって襲いかかったと証言したらしいが、こちらは物証がある。俺のレコーダーだけでなく舞もスマホで記録していたので俺達の証言の正しさはすぐに立証された。
「さて、これで被害者と加害者は確定された訳だが・・・おっ、来たようだな」
事情聴取が終わり、全員が集められた所で憲兵隊が到着した。警官が張った規制線を越えて近付いてくる。
「大宮憲兵隊の永井中尉だ。軍の者による犯罪行為があったと連絡が来た。ここの責任者は誰か!」
「お疲れ様です、自分であります」
到着した憲兵隊の責任者と警察側の責任者とで情報の擦り合せが行われた。関中佐からの連絡と齟齬がなかったようで、それはすんなりと終了した。
「君が連中を叩きのめした探索者か。ほう、何か武術の心得が?」
「滝本優と申します。武術は習っておりません。しかし日本舞踊を習っているので動きに癖が有ると思います」
永井中尉は俺の立ち姿や動きで武の素養があると睨んだようだ。そう言う中尉も隙がなく、何らかの武術を修めていると思われた。
「腕が立ち、特異なスキルで対応力が高い。探索者など止めて憲兵隊に入らんか?」
「えっ、憲兵隊にですか・・・」
憲兵隊は違法行為を犯した兵や探索者の鎮圧を行う。その為戦闘系スキルの所有者に勝てる実力が要求される。
戦闘の相手がほぼ人間な為、憲兵隊では武術を習得し技を磨いているそうだ。今度素戔嗚様にお会いしたらお伝えしなければ。
「こらこら、滝本君は俺が先に唾付けたからな。引き抜きはうちが失敗したらにしてくれ」
俺が戸惑っていると、中尉の背後から先程電話で聞いた声が聞こえてきた。
「関中佐、こんな所まで来ていただけるとは恐縮です」
「こういうトラブルの為に常駐していたからな。前回と違って部下に怒られずに済む」
中佐は大宮基地に指示を出した後、東京から高速鉄道で大宮に行き在来線に乗り換え。最寄り駅からタクシーで駆け付けてくれたそうだ。
「そこの上等兵以外は警察にお任せする。そいつは軍病院で治療の後憲兵隊送りだな」
「中佐殿、騙されないで下さい。俺が被害者でこいつが加害者です。こんなガキを信用しないで下さい!」
「録音や録画で一部始終の記録が残っているが?無駄な足掻きは立場を余計に悪くするぞ」
関中佐に縋ろうとした滝本上等兵だったが、警官に論破され項垂れた。
「あいつらの顔写真と指紋、戸籍などのデータを確保しておいてくれ。今後何かやらかしたらすぐに照合出来るようにな」
「はっ、了解しました!」
関中佐の指示を受けて永井中尉が部下に指示を出していく。本家筋の連中は今後は軍に目をつけられる事になるだろう。




