第百二十七話
「全員息はあるし、すぐに危機に陥るという奴もいないようだ」
「あの状況で手加減する余裕まであるって、お兄ちゃん最強!」
皆で手分けして馬鹿どもを縛り上げ、父さんが触って怪我の状態を診察していった。肋骨が折れたり内臓に損傷がある者は居るが、全員命だけは拾いそうだ。
このまま放置して帰りたい所だが、後々面倒になるので後処理をしなければならない。
「複数の武器を持つ相手に襲われたので返り討ちにしました。場所は・・・」
まずは警察に連絡する。普通なら救急にも連絡するのだが、現役軍人が関わっているので少々厄介な事になる。なので昨年得られたコネを活用させてもらう。
「滝本君か、あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます、関中佐。今、通話して大丈夫ですか?」
電話をかけた相手は陸軍情報部の関中佐だ。彼に事情を話して憲兵を派遣してもらおうというのが俺の企みだ。
「大丈夫、大丈夫。当番で出勤してはいるんだが、待機してるだけで退屈だったからな。むしろ話したい」
「仕事を作ってしまうので恐縮なのですが・・・」
俺は今回の出来事を要約して説明した。相槌を打つ中佐の声が低くなり不機嫌になっていくのが電話越しでも分かってしまう。
「複数人数に襲わせた挙げ句、人質を取るだと?大宮から憲兵隊を送るから、警察が来たらそのまま待機するよう言ってくれ。怪我人もだ。全責任は俺が取る」
事情を話し終わり、通話を切った所でパトカーのサイレンが聞こえてきた。音量からすると複数台来ているようだ。
「通報があったのはここで・・・間違いないようだな」
駆けつけた警察官が見たのは、庭に転がされたオッサンやオバサンの群れだった。全員が手足を縛られていて、俺の攻撃により吐いた血などで汚れている。
「おいっ、そこの連中をすぐに逮捕しろ。俺等はそいつらに襲われたんだ!」
「では、通報したのはお前なのか?」
「違うが俺達が被害者だ。俺は陸軍の上等兵だぞ!」
警官達は縛られている人間が被害者と主張し、陸軍の兵だと聞いて顔をしかめた。真偽は別として、軍が介入したらややこしくなるからだ。
「軍人の俺に手をかけたんだ。そいつらは帝国への反逆者だ!」
調子に乗って喚き続ける滝本上等兵。俺は困惑する警官の助け舟を出す事にした。
「既に陸軍にも通報済です。大宮より憲兵隊が向かっている筈なので、そのまま待機するよう指示されました」
「そ、そうか。ならば憲兵隊の到着を待つとしよう」
最悪憲兵隊に丸投げすれば良いと安堵した警官達だったが、そこに横槍が入る。
「そんなの嘘に決まってるだろうが。おい、軍人の俺とただのガキ、どちらを信じるんだよ!」
「それを言ったら、お前が軍人というのも確証は無いぞ。これは確認しておくべきか。こいつらの名前を調べろ!」
警官は手分けして縛られている人間全員の持ち物を調べた。俺達も免許証や探索者証、学生証を提示してステータスと照合する事で身元を確定させる。
その後無線で所轄から陸軍に問い合わせしてもらえるよう連絡がなされ、自称被害者が本当に陸軍所属という事と憲兵隊がこちらに向かっている事が判明した。
「優、よく陸軍へのコネなんて繋いでいたな」
「偶然だったんだ。でも本当に助かったよ」
関中佐が電話対応という仕事から逃げた為に繋がった縁。その電話対応も玉藻が元凶だった事を考えたら、俺が仕組んだと言えるのかな?




