第百ニ十六話
家族の下に駆け寄りつつ斧槍を振り回す。鋤の柄で受け止めようとした奴も居たが、勢いのついた緋緋色金製の斧槍を木の柄で止められる筈もない。
あっさりと叩き折り、直撃を食らったオッサンは転がって血を吐き倒れ伏した。残りの二人は逃げ出そうとしたが、背後から脇腹に斧槍を食らい意識を手放す。
「それが新しい武器か」
「凄い威力ね」
初めて斧槍を見た両親が感嘆の声をあげた。練習を見ていた舞が嬉しそうにドヤ顔をしているが、襲われたショックは無さそうか?
「特殊能力が女性限定というのが玉に瑕だけどね。だけど、それが無かったら買えるような値段じゃなかっただろうから良かったと言うべきかな?」
両親に答えながらも斧槍の柄を伸ばし連中の意識を狩っていく。柄をぶつけているのは殺さぬようにという訳ではなく、斧の部分で切ってしまうと舞に見せたくない光景となってしまうからだ。
「た、頼む、見逃してくれ!ほら、武器も捨てたぞ!」
「大事な家族に手を掛けようとした奴らの言葉を信じろと?お前らの言葉を信じられる要素など何一つ有りはしない」
今は武器を手放していても、隙をついてまた武器を取るかもしれない。実際に鎌で家族を襲おうとしたのだ。全員無力化するのが最善だろう。
滝本家の有象無象が全員地に伏し、事態は終結したかと思えた。しかし、まだ事態は終わってはいなかったのだ。
「調子に乗りやがって!だがそれももう終わりだ。お前ら全員切り刻んでやる!」
速度増加スキル持ちがいつの間にか停めてあった車に近寄り、トランクから双剣を取り出していた。鞘から抜かれた剣身には研ぎ澄まされた刃が光っている。
「今度は棒じゃねえ、当たれば切れる実剣だ。鈍重な斧槍で凌げるかよ!」
棒と実剣では戦い方を変える必要がある。相手が実剣となると、掠っただけでも出血するので完全に躱すか受けるかしないとダメージが蓄積されていく。
実際に侍の立ち合いでは互いに無数の切り傷だらけとなり失血死するというパターンが多かったらしい。
一撃の威力は大きくとも、当たらなければ意味がない。そして奴は速度の速さが身上。斧槍を躱しつつ傷を付けていけば勝てると踏んだのだろう。
「その考えはある意味正しい。だが、お前は大事な事を見落としている」
俺は脇腹を狙って繰り出された薙ぎ払いを左手の剣で受けつつ胸を狙って突かれた剣を右手の剣で払いのけた。
「いつから俺の装備が大盾と斧槍しか無いと錯覚していた?」
「くっ、双剣まで持っているだとっ!」
斧槍でも勝てていただろうが、念には念を入れて男に戻り双剣に換装した。俺だけでなく家族の命が掛かっている。リスクは少ない方が良い。
「だが、同じ武器なら、手数で勝負する双剣ならばスキルの差で俺が勝つ!」
「速度増加は良いスキルだ。だがな、増加される元の素早さが低ければ増加分も低くなるのが道理。お前程度の速さなんて怖くも何とも無い!」
狂ったように左右から放たれる斬撃に剣を合わせて弾いていく。自分がもっとも得意とする局面に持ち込んでも完封されている事実が奴を焦らせる。
焦りは攻撃を単調にさせ、尚更受けるのが楽になる。そして、戦いの最後は意外な形で迎えることとなった。
「ふむ、そろそろか。はっ!」
「お、俺の剣が・・・」
俺の気合を込めた一撃は、奴の双剣を両方ともに半ばから砕いてしまった。剣身が短くなった双剣を落とし、へたり込んだ奴の首に双剣を突きつける。
「父さん、母さん、どこかにロープくらいあると思うから探してきて。こいつらを拘束しないと」
こいつ以外は全員立てるとは思えないが、万が一という事もある。最後まで気を抜かないでおこう。




