第百二十三話
「まあまあ、慌てるな。外れスキルを引いた君に選ばれし者が持つスキルという物を見せてあげよう。一生の宝になるだろうからね」
根拠も無いのに俺が授かったスキルが使えない物だと断定している。もし俺が戦闘系スキルを授かっていたら、こいつはどうしたのだろう。
「俺が授かったのは非戦闘系スキルだが、外れと断じるのは早計だろう?それとも、俺のスキルを知っているのか?」
「はっ、現代の帝国で非戦闘系スキルなんてハズレだよ。ダンジョンに潜り闘う者が帝国を支えている。それは紛れもない真実だ」
確かに探索者と陸軍が居なければ帝国は瓦解する。エネルギーは魔石に頼っているし、肉の供給も突撃豚のレアドロによる恩恵は大きい。
それに氾濫が起きれば欧州やロシアのように国が統合されたり分裂したりする可能性もある。その点だけは正しいと言える。
「そこまで言うのなら大層なスキルを持っているのでしょうね」
「クックック、俺は素早さ増加と体力増加という素晴らしいスキルを二つも授かっている。俺が選ばれし者という証だ」
確かに悪くはないスキルだ。素早い動きで相手を翻弄し、多い体力で動きを持続させる。使う武器は短剣のような軽い物か、手数を活かせる双剣辺りか。
「俺の素晴らしいスキルを教えたんだ。お前の下らないスキルも教えてもらおうか」
「ああ、構わない。俺のスキルは着せ替え人形と女性体の二つだ」
あちらが教えてきた以上、こちらも隠さずにスキルを教えてやった。こちらだけ隠すのはアンフェアだからな。
「ぷっ、ちょっ、本当かよ!想像の斜め下を行く面白さなんだが」
「いくら何でもそりゃ無いだろ。嘘で笑わせて誤魔化そうとしてないか?」
一瞬の静寂の後、その場は爆笑の渦に包まれた。まあ、スキル名だけ聞いたらそういう反応になるのも無理はない。
「そんな事はしない、これが証拠だ。ステータスオープン!」
「うわっ、本当に着せ替え人形と女性体だよ」
「こ、これは酷い。俺達を笑い死にさせる気か」
ステータス画面を捏造する事は不可能。なので俺のスキルが女性体と着せ替え人形だという事実に疑念を抱く者は居なかった。
「まあ、それでも個人でならあんたよりはダンジョンで活躍出来るがな。例え良いスキルを授かっていても人間性がそれではね」
「ほう・・・巫山戯た事を言うじゃないか。屑スキルのお前がダンジョンに潜れると?笑えねえ冗談だな」
俺の挑発に顔を引きつらせる自称勝ち組軍人。悪くないスキルだが、その組み合わせでは青毛熊を突破出来てもオークは無理だろう。
パーティーならば斥候や回避盾として活躍出来るかもしれないが、ソロでは攻撃力が足りない。だから個人でなら俺の方が上という理屈だ。
「巫山戯たスキルに同情したが、俺をバカにしたのは許せねぇ。その女みたいな体に礼儀という物を叩き込んでやるよ」
「生憎下らん偏見で父さんを侮辱した奴に払う礼儀など持ち合わせていなくてな。女みたいな俺に叩きのめされたら後が大変だな」
後から思い返すと、この時俺は父さんを貶められた怒りで冷静さを失っていた。相手のスキルの程度も、武器の種類も、その練度も分かっていない状態だ。
なのに相手を挑発し、戦うように仕向けていた。情報が少ない相手に取るべき言動ではなかったのだ。
でも、俺は反省はしても後悔は絶対にしない。父さんを侮辱した罪、どうあっても贖わせる!
 




