第百二十話
「「「「あけましておめでとうございます!」」」」
年が明けた元旦の朝、いつものルーチンを終えた俺は家族と新年の挨拶を交わした。
「舞、お年玉だ」
「はい、私からも」
「今年はお兄ちゃんも渡すからな」
お正月に行われる子供への恒例行事、お年玉だ。今年は探索者で収入を得ているので俺からも舞に渡した。
「ありがとう!あれ、お兄ちゃんには?」
「俺は自分で稼げるからね。なのにお年玉を貰うというのも気が咎めるから」
「そんなの気にするなと言ったんだがなぁ」
前世の中学二年生ならば、まだお年玉を貰っている年だろう。この世界でも貰っている奴は貰っているかもしれない。
「三桁万円の武具を買える収入があるからね。ソロなので収入は独り占めだから」
「それは分かってるけど、経費だってかかるでしょう」
母さんの言う通り、探索者は収入は大きいが支出もそれなりに大きい。最も大きいのは武具のメンテ費用だ。
剣でも槍でも、使っていれば劣化する。自分で手入れをしていてもそれは避けられない。なので業者に修理を依頼するか買い替えなければならないのだ。
しかし、俺にはその費用は一切かからない。名前とは裏腹に有能極まりないスキルである。
「うん、美味い。もう一杯もらえるか?」
「勿論ですとも。幾らでも食べて頂戴」
うちのお雑煮はほうれん草と豚肉が具のお雑煮だ。しかし母さんの絶妙な味付けとオーク肉、迷い家産のほうれん草によりご馳走となっている。
「この金時も美味しい!」
「伊達巻も絶妙な甘さだよ」
普通の食材を使ったお節も母さんの手により絶品に仕上げられている。俺達は満腹になるまでお雑煮とお節を堪能した。
その後は家族揃ってリビングでまったりと過ごした。初詣には午後から行く予定となっている。
「優、舞、大人の都合を押し付けてしまってすまないな」
「明日だけでしょう?大丈夫でしょ」
明日は父さんの親戚連中と顔を合わせる事になっている。スキルを授かった子の披露に本家へと集まるのが習わしらしい。
「正直、行きたくないし行かせたくないのだがな。本当にろくでもない奴らの集まりだよ」
所謂地元の名士といった感じの家で、昔は結構な広さの土地を持っていたらしい。権威や利権に弱く、弱きを挫き強きにへつらうとの事だ。
「父さんは戦闘系スキルではなかったから散々に扱き下ろされてなぁ。それが医院を開いて安定したら忽ち手の平を返してきた」
普段人を悪く言わない父さんがここまで言うのだ。かなりの連中だと思っていた方が良いだろう。
「舞ちゃんはまだスキルを授かっていないし、お留守番していてほしいのだけど・・・」
「どうせ私も再来年には行くのよね。それならどういう人達か知っておくのも良いと思うの」
悪意が強い奴等と舞を会わせたくない。なので留守番させたいという母さんの意見には俺も賛成なのだが。
「それに、何かあってもお兄ちゃんが守ってくれるでしょう?」
「当たり前だ。舞だけじゃない、父さんと母さんにも指一本触れさせない!」
俺達一家に危害を加えるつもりなら、実力行使も辞さない。当然ながら着せ替え人形には大盾や双剣、斧槍装備で何時でも切り替えられるようにしておく。
「それなら何も心配いらないよね。だから私も一緒に行くよ!」
お兄ちゃんに絶大な信用を寄せる可愛い妹を守らぬ理由などあるものか。いざとなったら玉藻の狐火で相手の骨まで焼いてやるからな!




