第百十ハ話
「やっぱりラグがあるな。これは解消出来ないか?」
庭で何度も女性体を発動しては解除するという動作を繰り返した俺は、大盾を持ったまま考え込んでしまう。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんが目まぐるしく替わってたけど、いきなりどうしたの?」
「斧槍を十全に使うには女性体で使うしかない。だから斧槍を持った状態から大盾を持った状態にスムーズに移行出来るよう練習してるんだ」
練習してはいるのだが、あまり芳しい結果は出ていない。双剣と大盾の換装の時は着せ替え人形を発動するだけで良かったのだが、斧槍から大盾となると女性体を解除するという作業になる。
着せ替え人形と女性体の解除では、大きな違いが発生してしまう。着せ替え人形だと着ている装備が変わるだけなのだが、女性体の解除では装備の変更に加えて体格も変わってしまうのだ。
「装備の変化は慣れで何とかしたけど、体格の変化はキツイな。それに双剣にするとラグが重なるし」
男性時の装備を大盾にしているから女性体解除時に自動で大盾装備になるが、双剣装備にしようとすると女性体解除の上に着せ替え人形を発動する必要がある。
「私には一瞬で変わってるようにしか見えないよ。そんなにマズイの?」
「今の十九階層までなら問題ないと思う。だけどこの先に進むなら不安要素は消しておく必要かあるからな」
それを解決する方法が無いなら兎も角、簡単に解決できる方法がある。それはたった一つの問題に目を瞑ればすぐにでも実行出来るのだ。
「斧槍を伸ばしたままで男の状態で使うという手もあるんだ。そうすれば大盾と双剣と斧槍の三つを臨機応変に換えて運用出来る」
「でも、お兄ちゃんはそうするつもりは無いでしょう?そうじゃなきゃ悩んでないものね」
舞の言う通りだ。特殊効果を使わなくても斧槍は十分に使えるが、柄を伸ばす効果は捨てがたい。弓矢や銃がモンスターに効かない為、遠距離攻撃出来る武器は貴重なのだ。
「今ここで悩むより、実際にダンジョンで使ってみてから決めたら?十九階層までなら大丈夫でしょう?」
「そうだな、実戦でどれ位支障があるか試してみた方が良いか」
舞の助言に従い一旦悩むのを保留する事にする。来年試してみてそれからまた考えよう。
「それじゃあお兄ちゃん、お買い物に行こう!」
「ちょっ、舞、何故にそうなる?」
「だって、お姉ちゃんでダンジョン攻略するでしょう?その為のお洋服買わないとね!」
今までは女性体で本格的にダンジョン攻略をしていなかった。しかし、斧槍を活かして女性体で潜るとなると相応の服が必要になるか。
「舞、付いてきてもお菓子は買わないぞ?」
「えっ、そ、そんな・・・」
わざとらしく悲壮な顔をする舞の頭を手荒く撫でる。可愛い妹はノリも良いからつい構いたくなる。
「お兄ちゃん、干し柿が食べたいな。あれは果実だからお菓子ではないな」
「うん、そうだね。干し柿はお菓子じゃないよね」
こうしてお出かけの準備をした俺と舞は駅前のお店で洋服を見て食品売り場で美味しい干し柿を買って帰ったのだった。
陽当りの良い縁側で、舞と並び緑茶を啜りながら甘い干し柿を楽しむ。
「舞、来年は渋柿買ってきて干し柿作ってみるか?」
「えっ、お家で作れるの?作りたい!」
年の瀬を前に、今日も滝本家は平和だった。来年もこの平和が続いてくれる事を心から願うのだった。




