第百十六話
翌日の朝、少し早く起きていつものルーチンを熟した。今日から斧槍の慣熟訓練を追加するのでその分早く起きたのだ。
「舞、眠くないか?武器は後でも見られるぞ」
「全然大丈夫!楽しみで早く目が醒めちゃった」
縁側ではワクワクを隠せず高揚している舞が目を輝かせている。そこまで武具が好きだったかな?
「取り敢えず出すとするか」
大盾装備の着せ替え人形を呼び出し、斧槍だけを取り外す。その他はそのままにして着せ替え人形を戻した。
「これが新しい武器だ。持ってみるか?」
「斧みたいだけど変な形ね・・・うわっ、凄く重い!」
舞は地面に置いた斧槍を持とうとしたが、力が足りずに持ち上げる事が出来なかった。俺は苦笑いしながら持ち上げる。
「これは緋緋色金という魔法金属で出来ている。とても硬い代わりにとても重い。持つだけでもかなりの力が必要なんだ」
これを女性が扱うのは難しいだろう。持ち歩くだけでも消耗してしまいそうだ。買い叩かれてしまうのも無理はない。
説明しながら斧槍を地面におく。念の為伸びろと念じてみたが斧槍は反応しなかった。
「そしてこれには特殊効果が付いている」
「特殊効果が・・・ってお姉ちゃん?」
いきなり女性体になった俺に戸惑う舞。鍛錬しようとしているのにいきなり女性になられたら戸惑うのは当然だ。
「この斧槍、柄の長さが思い通りに伸びるの。だけど、その効果は女性にしか使えないという制限があるから」
再び斧槍を持ち上げ、穂先を天に向けると伸びろと念じた。先程は全く反応しなかった斧槍がスルスルと長さを変えていく。
「伸びた!面白い!」
舞は大はしゃぎで斧槍を見つめている。期待に満ちた目がやってみたいと訴えていた。俺は期待に応えるべく舞に手を添えさせた。
「舞、戻れと念じてみて。それで短くなる筈だから」
「うん、斧槍さん戻って!」
斧槍は舞の願いに応え、長くなった柄を元の長さにまで戻していった。
「面白い!どうやって長くなったり短くなったりしてるんだろう?」
「不思議だよな。さあ、そろそろ終わりにしないと学校に遅刻するぞ」
仕組みの解明なんてとても無理だろう。柄を長くすると重さも応じて重くなるのだ。質量保存の法則さんがお仕事サボってます。
いつもと変わらない授業を終えて真っ直ぐ帰宅。朝に続いて斧槍の訓練を行った。早く慣れて使ってみたい。
伸ばしたり戻したりするのはかなりスムーズで、かなり長くしても然程時間はかからない。モンスターに向けて伸ばせば強力な刺突になりそうだ。
遠距離と中距離に対応するのは勿論だが、柄を短くすれば手斧として短距離にも対応出来そうだ。先端が重いので取り回しに苦労しそうだが、これ一本で遠・中・近と対応出来るのはありがたい。
最初はゆっくりと、慣れてきたら少しづつ速く振っているが、速く振ると遠心力も強くなるので制御するのが難しい。
それでも冬休みには毎朝毎夕の訓練で自在に振るう事が出来るようになっていった。ダンジョンで試したい所だが、もう年末なので来年に持ち越しとなる。
新たな武器の戦力化に目処が立ったのは嬉しいが、その代わりに難題を抱える事になってしまった。
対応する距離が広く威力の高い斧槍は今後のメインウェポンになるだろう。しかし斧槍を十全に使うには女性体でダンジョンに潜る事になる。
斧槍の制限が外せたら良いのだが、無理だろうなぁ。
 




