第百八話
予想してはいたが、武器は望むような物を売っていなかった。それは俺の要求が特異なだけであり、店のせいではないのだが。
少し移動し防具のコーナーも物色する。レイさんが着ていたような金属鎧は防御力が高いが、動きにかなりの制限がかかる。
着せ替え人形で持ち込むのは楽だし体質のお陰で重くても動く事は出来る。しかし動きにくくなるのは避けられないし、金属鎧は熱が籠もる。
レイさんが剣戟をしながら走っても平気だったのは適応するスキルを持っていたからだ。俺には出来ない芸当だ。
チサさんが着ていたような革鎧も見てみたが、彼女と同じ孤独狼の革鎧は初心者向けなので十九階層まで降りている俺には物足りない。
サラマンダーの皮は耐火性能はあるが物理防御は孤独狼の毛皮より少し高い程度。群れ狼の毛皮も孤独狼の毛皮と大差ない。
それ以上の毛皮となると入手困難になる為受注生産となる。二十階層以降でレアドロップ目当ての狩りをできる探索者パーティーはかなり少ない為桁違いの値段となるので手が出ない。
玉藻となって取ってくるという手はあるが、優が使うとなれば入手経路を探られるだろう。誰から入手したかは言えないし、それで目をつけられても困る。
結論としては武器にしろ防具にしろ、お金を貯めつつこまめにお店に顔を出して掘り出し物に出会うのを期待する。それしかない。
まだ少し早いがダンジョンに潜るには中途半端な時間なので帰る事にした。バスの中でSNSを見ると、まだ玉藻を探して彷徨っている連中が居るようだ。
そんな騒ぎはまるっと無視して地元の駅に到着した。家に帰る途中小さな公園に寄って玉藻になり迷い家に入る。
以前貯めていた鶏肉を幾つかリュックに入れて戻り男に戻る。これで1日中大宮のダンジョンに潜っていた物証の準備が完了した。
「ただいま、鶏肉取ってきたよ」
「お帰りなさい、優ちゃん。少なくなってきていたから助かるわ」
キッチンに移動して鶏肉をリュックから出していく。これらがどんな料理になってくれるのか今から楽しみだ。
晩御飯は夫婦鶏の水炊きを堪能した。美味しかったのだが、野菜やキノコが鶏肉に負けていたのが気になった。
もしも野菜とキノコを迷い家産にしたら、なんて思ってしまうが、春菊など迷い家に無い野菜やキノコはどうしようもない。
「そういえばお兄ちゃん、川越に狐巫女さんが居たらしいわよ」
「ああ、ダンジョンから出てスマホで見た。帰りにギルドのホールが騒がしかったから何かと思ったよ」
ダンジョンの中では電波を受信出来ないので、出てから知ったという事にしておかなければならない。
「軽いトラブルが起きたらしいな」
「優ちゃんは巻き込まれないように気をつけてね」
「大丈夫、俺は狐巫女さんをパーティーに勧誘しようなんて思わないから」
と答えてはいるが、その当事者本人なのである。いつかは話す必要があるとは思うが、それは軍に入って家族を守る約束を軍に取り付けてからの方が良いだろう。
慎重すぎるかもしれないが、もし玉藻絡みで家族に何かあったら悔やんでも悔やみきれない。やれる事をやらずに後から後悔するなんて真っ平御免だ。
「狐巫女さん、川越に住んでるのかな?川越に行ったら会えるかな?」
「狐巫女さん、観光に来たと言っていたらしいぞ。だから川越に行っても会えないだろう」
狐巫女さんに会えるかと期待した舞はガッカリしたようだが、こればかりは仕方ない。俺が真実を告げる日まで待っていてもらいたい。




