第百七話
作者「免許の返納に行ったら現金が使えなかったでござる」
優「情弱w」
「すまぬ、怖い思いをさせてしまったのぅ」
「ううん、狐さん強くて格好よかった!」
間近で乱暴なシーンを見せてしまった事を謝罪したのだが、怖がる事無く目をキラキラと輝かせて興奮しているようだった。
「それなら良かったのじゃ。またあのような輩が来ても困る故、妾は帰るとしようかの」
幼子に手を振り駅の方へと向う。囲んでいた人達は道を開けてくれ、俺を留めようとはしなかった。
この姿のまま電車に乗る訳にもいかないので、一本道を外れた所にある神社の境内に入る。人がいない事を確認してリュックを迷い家から取り出し、男性の体に戻った。
今度は本川越駅ではなく国鉄の川越駅へと向う。ちらほらと視線を感じるが、玉藻の時に比べたらかなり少ない。
バスで戻らないのは大宮のギルドで武器を物色するためだ。落とし亀の大盾で防御力が、片手半剣の二刀流で攻撃力が上がったが打撃武器も持っておきたい。
駅に着くとタイミング悪く列車が出発したばかりだった。次の発車まで20分。時間も昼時なのでホームのベンチに座り母さん特製弁当を食べる事にした。
お握りの中に入れられた甘辛い牛肉がお米と絶妙なハーモニーを奏でる。一つでも結構な満足感を得られるお握りだったが、気付けば四つ全てが無くなっていた。
程なくして入線してきた列車に乗り込む。有名観光地の駅とはいえ、東武と西武の駅もあり都内に向う場合迂回する形になる国鉄の路線は乗客が少ない。
ガラガラの車内に座り発車までの間にSNSを覗いてみた。案の定、玉藻の動画が幾つも出回っていてどれもがかなりの閲覧数を叩き出していた。
その中でも最も多く見られていたのが無礼な奴等に絡まれた際の動画だった。
コメントには絡んで来た連中に対する批難が多く、その身元も特定されて炎上しているようだ。前世も今世も特定班の皆さんは優秀過ぎませんか?
SNSをはしごしている間に電車は動き出した。のどかな風景の中を電車はのんびりと進む。途中の駅ですれ違う電車を待つという単線ならではのイベントをこなし、無事に大宮へと辿り着いた。
「まだ間に合うかな?」
「わからん。だが行かないで後悔するより良いだろう。あの狐巫女を勧誘出来れば俺達も有名パーティーの仲間入りだ!」
玉藻の勧誘目的らしき連中とすれ違った。残念ながら玉藻はもう川越にはいない。草臥儲となるだろうが小江戸の観光を楽しんでくればいい。
バスに乗り到着したギルドでもあちこちで玉藻の話題が上がっていた。ダンジョン外での存在をアピールするという目的は完全に達成できたようだ。
武具の販売スペースに移動し売り物を物色する。槍や片手剣、両手剣や盾と豊富な種類が展示されている。
打撃武器として棍棒とハンマーがあったが、棍棒はバットを太くした程度でハンマーはヘッド部分が米俵を一回り小さくした程度の大きさの物が最大だった。
着せ替え人形で持ち運べる俺としては、大きくて威力のある物を選びたい。しかし、普通の人には持ち運びの手間を考えるとこの大きさが限界なのだ。
「すいません、打撃武器はもっと大きな物はありませんか?」
「それ以上となると注文生産になるね。需要がないから在庫は置かないんだよ」
念の為店員さんに聞いてみたが、返ってきた答えは予想した通りの物だった。




