第百六話
駅を抜けて県道を渡り、歩行者用となっている道に入る。この道は観光客向けのお店が並んでいる通りで沢山の人で賑わっている。
「あっ、狐巫女さんだ!」
「うわっ、動画で見るより美人だなぁ」
流石に狐耳と尻尾装備の巫女さんは目立つ。すぐに注目されて視線を集めてしまった。北に向かって歩きながら町並みを見学する。
美味しそうな甘味を売っているお店もあり覗いてみようかと思ったが、下手にお店に寄ると迷惑になってしまうかもしれないので思い留まった。
遠巻きに見られながら歩き、大正時代の町並みが並ぶエリアにさしかかった。時の鐘という名所まで行ってみようと思っていたのだが、見せ物状態に少しうんざりしてきた。
「あっ、狐さんだ!」
「これ勝手に走ったらだめよ。巫女さん、娘がすいません」
もう戻ろうかと思った時、三才くらいの女の子が駆け寄ってきた。後ろから追いついてきたお母さんが娘さんを確保し嗜める。
「お嬢ちゃん、狐さんは好きかのぅ?」
「うん、ふさふさで可愛くて大好き!」
しゃがみこみ、笑顔で答える娘さんと目線を合わせる。耳をピクピクと動かすと目を輝かせて喜んだ。
「そうか、それは嬉しいのぅ。じゃがな、お母さんの言う事は聞くのだぞ。狐さんと約束できるかの?」
「うん、約束する!お母さん、走っちゃってごめんなさい」
娘さんはお母さんの方を向き、ペコリと頭を下げて謝った。お母さんは笑顔で愛娘の頭を撫でる。
「良い子じゃのう。どれ、ご褒美じゃ。特別に触らせてあげようかの」
「うわぁ、いいの?」
尻尾を娘さんの目の前に差し出すと、お母さんと俺を見てから遠慮がちに撫でてきた。
「うわぁ、フカフカだぁ」
「巫女さん、ありがとうございます」
お母さんは申し訳無さそうにお礼を言ってきた。娘さんは初めは恐る恐るといった感じで触っていたが、今では夢中になってモフっている。
「構わぬよ。急ぐ用事がある訳でもないしのぅ。たまには観光でもと思ったのじゃが、下手にお店に入ると迷惑になりかねん。帰ろうと思っていたところじゃ」
「私が言うのもなんですけど、見る側ではなく見られる側になってますよね」
周囲には人集りが出来ていて、俺が観光名所のような感じになっている。
「おっ、本当に居たな。そこの狐獣人、ちょっと話があるから来いよ」
人混みを掻き分けて三人の男が高圧的な態度で話しかけてきた。感じからして探索者パーティーへの勧誘なのだろうが、当然ながらお断りだ。
「ふん、礼儀も弁えぬ小僧と話す事などありはせぬ。小学校で道徳を学び直してから出直して参れ」
「何だと、人が下手に出てればいい気になりやがって!」
瞬間湯沸かし器と張り合える早さで沸騰した男が殴りかかってくる。俺は娘さんをお母さんに渡し振るわれた拳を紙一重で避ける。
「どこが下手に出ておったのじゃ?あれで下手に出ていたとしたら、そうでない時はどれだけ傲慢なのじゃ」
すれ違い様に顎の先を打ち、脳を揺らしておく。意識までは無くさなかったものの立つことも出来なくなった男は不様に倒れ込んだ。
「それに子供がおるにも拘わらず暴力を振るってくるとは見下げた外道。そこの二人もやるかの?やるなら次は手加減せぬ故覚悟しいや」
俺は袂から鉄扇を取り出し構えをとる。しかし残りの二人は転がっている男が瞬殺された事に恐れを成したか謝ってきた。
「すまない、俺達は止めよう思ったんだがそいつが暴走したんだ」
伸びているバカが話していた時、こいつらもニヤニヤと人を見下した薄笑いを浮かべていた。信憑性は全く無いが、こいつらに時間をかけるのは勿体無い。
「ではこいつを連れて去るがよい。次は手足のニ、三本を無くす事を覚悟するのじゃな」
「は、はいいっ!」
二人の男はまだ立てない男を引きずりながら逃げていった。
作者「地図見ながら頑張って書きました!」
優「現地取材してないのかよ!」




