第百三話
「惜しかったね」
「もうちょっとだったね」
午後のプログラムも問題なく進行し、全ての競技を終える事が出来た。一組連合は三組連合にわずかに及ばず二位という結果に終わった。
かなりの接戦で最終競技まで優勝がどちらか分からないという白熱した展開となり、応援にも熱が入っていた。
閉会式も終わり、保護者達は帰っていった。俺達仮装競争の出走者は着替えの為に特別教室に移動し、他の生徒は椅子の片付けを行っている。
「なあ、ちょっと声かけてみようぜ」
「バカ、あれ男子だぞ。有名人なんだから知ってるだろうが」
「あれだけ美人なら性別なんてどうでも良いと思う俺がいる」
先に女子二人に着替えて貰い、俺はその間スペースを区切っているカーテンの外で待機している。それを見て他のクラスの男子がヒソヒソと話しているのが聞こえてくる。
「滝本君お待たせ。どうしたの?」
「いや、ちょっとね」
カーテンの中に入り、男子がヒソヒソと話していた内容を二人に話した。
「まあ、私達が見ても文句なしの美人だけど・・・」
「節操ないと言うか、ちょっと引いちゃうわねぇ」
ともあれ、早く着替えなければならないので二人に手伝って貰いドレスを脱ぐ。脱いだドレスを二人に任せ、制服を着て化粧を落とした。
「このドレス、この後どうすれば良い?」
「あっ、聞いてなかったわ」
「私とレイちゃんの鎧と剣は私物だから持って帰るけど・・・」
どうやら二人が着ていた鎧や使っていた剣と短剣は普段ダンジョンで使っている物をそのまま流用したらしい。
なので衣装作成の時間を俺のドレスに全振り出来た為、あの短期間で凝ったドレスを用意出来たのだ。
「後で先生に聞いておくわ。多分滝本君が持ち帰る事になると思うけど」
「いやいや、貰っていつ着ろと?男がドレスを着る機会なんて無いからね?」
京都大学や京都芸術大学に進学したら卒業式で使うという可能性も極々低いがあるかもしれない。だが、俺は軍に入るつもりなのでその道に進む事は無いだろう。
それに、このドレスは今の身長で作られている。まだ成長期なのだから身長が伸びて着れなくなるだろう。
あ、この世界の京都大学や京都芸術大学の卒業式もカオスなのだろうか。まともな卒業式になっている可能性もあるな。
取り敢えず、後で確認する事にして今日は帰宅する事になった。先生も後片付けで忙しいし、代休明けに聞く方が良いだろう。
「お兄ちゃんお帰りなさい。凄く綺麗だった!」
「優ちゃんお帰りなさい。黒いドレス、似合ってたわよ」
「お帰り、優。まあ、その・・・似合ってたぞ」
説明とかしていなかったけど、両親と舞は一目でドレス姿の姫役が俺だと分かったらしい。父さん、いっその事気遣いが無い方が楽だったかもしれないよ。
夕食での席では体育祭の話題で盛り上がった。主な内容は仮装競争の件だったが、俺以外の出走者も個性的だったのでその話しが中心だった。
「青毛熊に追われる探索者は面白かったな」
「熊が本物みたいだった!」
両親も舞も楽しめたようで何よりだ。女装姿を晒す事となったが皆が楽しめたならそれで良い。
「優、クラスメートと楽しめたみたいで安心したぞ。良かったな」
「あれは佐久間さんと横山さんのお嬢さんだったわね。どちらが本命かしら?」
「母さん、違うから!一緒に走ったけどそういう関係になろうなんて思ってないから!」
どこまで本気か分からないからかいを受け、必死に否定した。何で女性はこんなに恋バナが好きなのか。それは男にとって永遠の謎なのだろうな。
 




