第百一話
「姫、恨みは無いが仕事ゆえお命頂戴する!」
「させはせぬ!姫、お逃げ下さい!」
「そんな・・・くっ!」
革鎧に短剣を持った刺客を金属鎧に身を固めた女性騎士が剣を抜き押し止める。姫は僅かに躊躇いを見せるものの、騎士の言葉に従い走り出す。
「逃しはせぬ!」
「行かせぬよ。姫は必ず守る!」
姫の後を追おうとする刺客を留めようと剣を振る騎士。姫は必死で走るのだが、黒いドレスにハイヒールと走るには向かない格好の為その速度はあまりにも遅い。
騎士と剣戟を繰り返しながらも姫に迫ろうとする刺客と逃げる姫の距離は中々広がらない。それどころか、剣と短剣で打ち合う二人は姫に近づいていく。
「もう少し・・・姫、覚悟!」
姫との距離が近づき、焦った騎士に隙が出来た。刺客はそれを見逃さず姫に迫る。しかし、漸くの好機に隙が出来たのは刺客も同じだった。
もう少しで刺客の刃が姫に届くという所で騎士の剣が刺客の背中を斜めに切り裂いた。僅かな差で敗北した刺客は、その手から短剣を落とし倒れた。
「姫、もう大丈夫です」
かくして姫は刺客の魔の手から無事に逃れ、護衛の騎士はその任を全うした。それと同時に三人はゴールラインに到達し、仮装競争を走りきった。
「お疲れ様でした。滝本君、足は大丈夫?」
「ゆっくり歩くなら平気。女の人はよくこれを履いて歩けるね」
仮装競争を終えた俺達は、席に戻るため三人並んで歩いている。何とか転ばず完走出来たので肩の荷が下りた。
「でも、実際に見ると凄いよね。金属の塊の全身鎧を着て殺陣を演じながら走れるんだから」
「金属鎧適性と剣術のスキルはそういう物だから」
今回の競争で、俺は姫役を割り当てられた。騎士役の女子は金属鎧適性と剣術を、刺客役の女子は短剣術のスキルがあるので適役だったのだ。
「私もレイちゃんもダンジョンに潜ってるもの。あれ位はこなせるわ」
「と言っても四階層までしか行けないから、滝本君と比べたらまだまだだけどね」
この二人、レイさんとチサさんは二人でダンジョンに潜っているとの事。攻防に力を発揮するチサさんに、斥候役で遊撃を行うレイさんのペアは良い組み合わせだと思う。
「なのに、腕力強化なんて微妙なスキルで上から目線で俺が作るパーティーに入れなんてしつこく言われるのよ!」
「本当にウザいのよね。あいつ、そもそもダンジョン入った事あるのかしら?」
知らないとはいえ、自分より有用なスキルを得た女子に対して傲慢に振る舞ってる訳か。そりゃさぞかし鬱憤も溜まるだろう。
「三人共凄かったよ!」
「レイちゃん、その鎧本物?うわっ、すごい硬い!」
二年一組の席に戻ると、俺達はクラスメートに囲まれた。主に質問攻めにあっているのは金属鎧を着たレイさんだ。
「私は鎧と剣、チサは短剣のスキルがあるから。ダンジョンで戦う事に比べたら、あんなの楽勝よ」
「えっ、レイちゃんとチサちゃん、戦闘系スキル持ちだったの?それにダンジョンに潜ってるの?」
レイさんのカミングアウトに二年一組の生徒は騒然となった。特に男子達は色めき立った。仲良くなって、序にダンジョン探索で寄生しようと目論んだのだろう。
「だから私達は誰かに頼らなくてもダンジョンで活動出来るのよ。どんなに勧誘されてもお断りよ」
レイさんの言葉にクラスメートの視線は一人の男子に向けられる。その男子は怒りでか恥辱からかは知らないが、顔を赤くして震えている。
「さあ、まだまだ競技は続くわよ。応援しましょう!」
校庭では次のプログラムである200メートルハードル走が始まっていた。チサさんに促された皆は声を出して応援の集中するのだった。




