第十話
「もう少し我慢していてね。これも優君にとって必要な事だから」
お姉さんはポケットから巻き尺を取り出し、手早く俺のサイズを測っていった。その数値をメモに書くとそれをお母さんに渡してくれた。
「はい、もう戻って良いわよ。お母さんに一式買ってきて貰って家で着ておきなさい。男性で女性服のお店に入って裸の女性になるより良いでしょ」
「お気遣いありがとうございます。では戻りますね」
俺は男性体に戻るように意識し、服を着た状態で男に戻った。そして着せ替え人形を呼び出しバスタオルを回収。お姉さんに渡してお礼を言った。
「これでスキルの確認は終了です。新発見のスキルなので後日問い合わせがされるかもしれません。まあ、非戦闘系スキルなので大丈夫だと思いますが」
非戦闘系スキルは実に多彩で、今でも次々と新たなスキルが発現している。封書の中身を切らずに封筒だけ切れるスキルや、黄金虫の雌雄を瞬時に見分けるスキルなんて物も存在したらしい。
俺達は待合室に戻り待ち惚けを食らっていたお父さんと合流。お姉さんに挨拶をして役所を離れた。
「予想外のスキルだったが、結構役に立つスキルじゃないか」
「制服と私服を着せ替え人形に着せておけば、毎朝の着替えがあっという間に終わりそうだ。浄化と修復も自動でされるから洗濯の必要も無いし」
朝制服に着替える時間と、学校から帰宅して私服に着替える時間と、夜寝る時に寝間着に着替える時間が短縮されるのは小さいようで大きい得になると思う。
「女性体も良いスキルよ。娘が一人増えたわ」
「あのお姉ちゃんにこれからは甘え放題とか嬉しすぎるわ」
俺としては必要が無い限り女性体になりたくないのだが、お母さんと舞の浮かれようではそれは許されそうもない。
「お父さんも早く見たいな。スマホで撮影してないのか?」
「服が無かったのよ。お父さん、年頃の娘の裸を見たいと?」
助手席から運転中のお父さんを睨むお母さんの視線が冷たい。春なのに冬に逆戻りしたかのようだ。
「そ、そんな事はない。ただ、お母さんと舞が浮かれているから早く見たいと思っただけだ」
お父さんは現状を打破しようと必死の言い訳をする。帰る迄の時間をほぼそれに費やした甲斐があってか、お母さんと舞の視線は少しキツイ程度にまで和らいだ。
「明日は午前中に優の服を買ってきます。帰ったら着てもらうから出かけたらダメよ」
「今日は夜更しして疲れているし、そんなに急いで買って来なくても・・・」
「出かけたらダメよ?」
「・・・はい」
抵抗を試みるも、お母さんには勝てなかった。どの道必要なのだし、嫌な事が早く終わると前向きに考えておこう。




