8話
「それで、何で2人は階段から飛び降りようとしたんだよ」
「入れ替わったきっかけがあの階段から落ちたことなんですよ」
「だから、また落ちたら元に戻ると思ったんだよ」
「なるほど…」
英人は階段を見つめる。
「確かに同じことするのって、入れ替わりの話のセオリーだもんな」
「けっこう知られている話なんですね」
「でも、試してもすぐ戻った話は少ないよね」
「天野!話が違うじゃねえか!」
「物語の中の入れ替わりなんだから、すぐに戻ったら面白くないじゃないですか」
「俺たちは面白くなくていいんだよ!」
空高が千蔭に対して怒鳴るので、千蔭はひっ、と怯える。
「そういう訳だから、飛び降りるのは危ないからやめてほしいな。死のうとしているんじゃないかって、驚いたんだから」
「だから、あんなに必死で止めていたんだな」
「英人、必死すぎて、俺たちのこと呼び捨てにしてたもんな」
「だって、何とかして、止めなくちゃと思ったから…」
空高がニヤついているのに、英人は気恥ずかしさで顔が赤くなる。
「まあ、一歩間違えたら、命の危機でもありましたしね」
「結局戻らなかったし、この方法はやめてやるよ」
英人が本当に心配していたのが分かったので、2人は素直に受け入れる。
じゃあ、どうしたら元に戻ることができるのか。
話はまたそこに戻る。
しかし、どう考えて、話し合っても答えは出ず、膠着状態になってしまった。
「…ひとまず、お互いのフリするのがいいんじゃないんですか?」
「…そうだよな。それしかないな」
そう提案する千蔭は苦虫をかみつぶしたような苦悶の表情で、納得する英人もまた顔色が青く、落ち込んでいた。
治喜も空高も、自分のことのように悩んでくれることにうれしく思っていた。
「「この人/こいつのフリか…」」
そう言って、お互いに見合った自分の顔は、まるで鏡のように自分の心底嫌だという感情を表していた。
「私たち、普段の学校生活から正反対じゃないですか?生徒会役員と、西山さんは授業サボったりしてますし」
「こいつみたいにきっちり制服なんて着てられないぜ」
「お互いに情報共有しないとな」
治喜と空高だけの会話だと、また喧嘩を始めるので、都度都度英人が口を挟んでいく。
「後は芸能活動ですね。最近はダンスもしているのですが、西山さんのプロ並みとはまだ程遠いと思いますし」
「へえ。止まって、写真撮られるだけのお人形さんじゃないんだな」
「アキ先輩、煽らないで」
「まあ、俺も宣材写真新しく撮ったぐらいしか経験ないからな」
「動くことしか能がないと思ったので、驚きました」
「東川先輩も仕返ししないでください」
それぞれ得意げに笑い、にらみつけるの繰り返しなので、それをなだめる千蔭と英人も一苦労である。
「「あと、これからアイドルとしても、やっていかないといけないのに」」
「「…え?」」
「「あ…」」
しばらく、沈黙が流れていた。