6話
「何でこんなことに…」
空高の姿の治喜が頭を抱え、うなだれている。
階段の下が公園になっていたので、その中のベンチに腰かける。
治喜・千蔭・空高の順である。
千蔭が間にいるのは、治喜と空高は顔を合わせれば喧嘩するため、間を取り持つのと、それぞれ自分自身の顔を見るのに覚悟がいるので、ワンクッション入れるためである。
何で英人よりも先に自分が関わっているのだろうか。
千蔭はもう胃が痛くなっていた。
「ちっ。それが分かれば苦労しねえよ」
「私の姿でそんな柄の悪い真似しないでください!」
「そりゃ、こっちの台詞だ。俺でそんな弱々しい面晒すんじゃねえ!」
「落ち着いてください!」
ほんの数分経っただけでまた言い争う。
ただ、お互いの目に映るのが自分の顔なので、その居心地の悪さにすぐに視線を外す。
「すみません。君は全くの他人なのに、こんなことに巻き込んでしまって」
空高のいつもの柄の悪い顔で、心底申し訳なさそう
に頭を下げる姿に違和感しかない。
「俺の方は知らないって訳でもないんですよね。ほら、同じ制服でしょ。2年の、…天野千蔭です」
服をつまんで示しながら、自己紹介する。
「お前後輩か。3年の西山空高だ。今は東川の姿だがな」
「同じく3年は東川治喜です。今は西山さんの姿ですが」
「よろしくお願いします」
後輩らしくぺこりと頭を下げる。
「天野って、こんなときなのに冷静だよな」
「まあ、天野くんにとっては他人事ですからね。当事者の私たちには訳が分からないことばかりで戸惑うばかりですが」
「…まあ、漫画とかでよくある展開ですし」
何を気まずそうに思っているのか、少し視線をずらす。
「確かに入れ替わりが組み込まれた作品はそれなりにありますよね」
「そんで漫画とかでは、どうやって戻るんだよ」
「だいたいは入れ替わったときと同じことを繰り返したり…」
「よし、行くぞ!」
空高は立ち上がり、駆け出す。
「また階段から落ちれば、戻るんだろ!」
「まだそうと決まった訳では…」
治喜はひとまず空高を追いかける。
「…絶対無理だと思うけど」
千蔭はそうぼそりとつぶやいた。
治喜と空高は階段を上がり、千蔭は階段の下の少し離れたところで見守っている。
「こんな高さで先ほどよく無事でしたね。本当にやるんですか」
「お前だって、このままは嫌だろうが」
「それはそうですが」
そして、2人は階段から飛んだ。
離れているものの、砂埃がたつので、千蔭は目を閉じる。
2人はすぐに起き上がって、顔を見合わせる。
「「戻ってない!」」
立ち上がって、階段を駆け上がる。
「もう一度!」
「せーの!」
また飛んだ。
地面に辿り着いて、起き上がる。
「「戻ってない…」」
「またやるぞ!」
「またですか!次落ちて、無事な保障はないんですよ!」
「だったら、このままでいいのかよ!」
空高は大声を上げた。
「俺は他人の体でいるのなんてごめんだ」
「分かりました…」
治喜はそう言って、しぶしぶ階段を上がっていく。
「絶対俺は元に戻る」
そう言う空高は覚悟を決めた目をしている。
飛ぶために助走をつけ始めたとき。
「何やってんだよ、ハル!アキ!」
それを止める人物がいた。
「やっと来たか、英人」
ひどく息を切らした英人だった。