5話
降りた先で、2人を確認する。
見たところ、息はしていて、打撲痕は大したことなく、かすり傷程度。
救急車を呼ぼうかと思ったが、この程度なら大丈夫かもしれない。
でも、脳振盪を起こしているかもしれない。
病院には連れて行った方がいい。
でも、自分一人じゃ2人ともどころか1人も連れて行くことはできない。
「ううっ…」
「んあっ…」
2人のうめき声が聞こえる。
「目が覚めましたか?」
千蔭が呼びかける。
「ああ。痛っ!何だよ、これ!」
東川治喜からは乱暴な口調。
「すみません。ご面倒をおかけしました」
西山空高からは丁寧な口調。
このちぐはぐな対応に、千蔭からは冷や汗が流れる。
(いやいやいやいや!こんなことが起きる訳ないだろ!)
「だいたい西山さんがつっかかるから!」
「ああ!東川が別のところ行けばよかっただろーが!」
2人は顔を上げて、また口論を始めようとした。
しかし、それはなされなかった。
2人は顔を見合わせる。
目を丸くし、口を震わせる。
動揺している様がありありと伝わってくる。
「「何で私/俺が目の前に!?」」
こんな台詞を聞いて、千蔭は本格的に今目の前で起きていることに察しがつくようになった。
正直現実逃避したい気持ちでいっぱいだ。
もう、目を覚ましたのだから、この場から立ち去ってもいいのではとも思う。
「あ、何で俺眼鏡かけてんだよ!外すと全く見えねえし」
「何でネクタイ外れているんですか!はだけすぎですよ」
もう2人もあたふたしていて、千蔭のことは視界に入っていないようだし。
でも、こんな大変なときに誰か自分たちのことを知っている人がいたら、きっと助かる。
千蔭も自分自身お人好しだなと思う。
動揺している2人を横目に鞄をごそごそと探し出す。
鞄の中から鏡を取り出した。
さすがに二枚は入っていなかったが。
もう一人の分は、スマホのインカメで確認してもらえばいいか。
スマホの操作をして、インカメで顔が見えるようになった。
「あのー、先輩方…」
「あ!?」
「こんなときに何の用ですか!?」
凄んでくるが、相変わらずちぐはぐな表情なので、怖さより混乱の方が勝る。
「こちらで今の自分の顔を見てもらった方が早いかと」
治喜の方に鏡、空高の方にスマホを差しだす。
「なっ…」
「はぁっ!?」
2人は顔を引き攣らせながら、驚く。
確かに驚くよな、と内心頷いていた。
「何で西山さんの顔が映っているんですか…!」
「これは東川の顔だよなあ…!」
もう今までの言動で何が起きているかは分かりつつあったが、この言葉で確信がついた。
「お二人は入れ替わったということですね」