55話
「あ、俺マネージャー会議に呼ばれたから、言ってくる」
ストレッチが終わったあと、英人がそう言い、出ていく。
「じゃあ、やりますか。レッスン用に楽曲いろいろ預かってますし」
「というか、何でボクらはずっとグループだけでレッスンしているの?」
「そういえば、先生はいないのか?」
「…確かに俺が入ってから、そういった人を見たことがない」
千蔭が入ってすぐに、フェスの出演が決まったが、カバーなこともあって、ライブ映像やnanaが自分で確認するために撮った映像を参考に、練習をしていた。
「まだ私が一緒にアイドルをやる人が分からなかったときは、指導してくれる方はいましたよ」
「俺はダンスはいけたけど、歌うのはやったことなかったから、ボイトレとかしていたぜ」
「1週間前ぐらいには上達していたので、各自で練習ってことになったんです。そのあと、入れ替わってしまったので、好都合でしたが」
事務所主催のフェスで、コーチのいない理由が分かった。
「俺社長にブランクあるって話したのに、コーチつけなかったのは?二週間しかなかったから、基礎より曲覚えるのが優先だとは思うけど、それでもコーチつけた方がよかったんじゃ。俺があがり症だって判明するまでは順調にできたけどさ」
「ボクたちもこの二週間は先輩たちのを見ていただけだよね。合わせて練習もしたけど」
「俺なんかはこの中で全く経験ないのだから、別で練習するべきだと思ったのだが」
すると、トントンドアの叩く音がする。
「今、大丈夫か?」
英人の声がしたので、ドアを開く。
「会議って言っても、今月の仕事どんなのがあるか聞いただけ。まあ、しばらくはレッスン。慣れてきたら、路上ライブやライブハウスで考えてはいるみたいだけど」
「先ほど私たちで話していたんですが、プロの講師には教わらないのですか?」
「それかあ…」
英人は口よどむ。
「ダンスのプロのアキ先輩たちいるし、このグループだけでの練習でうまくいっているから、このままでもいいんじゃないかって…」
「えー、それって見捨てられたの?」
「何度もいうが、俺は初心者なので、基礎から教わりたいんだが」
群里と聖夜が文句を言いだす。
「俺もそう言ったが、『本当にいいの?』って、含みがあったというか…」
「含みって何だよ。やっぱり、俺が昨日棒立ちになったことで…」
「それはない!昨日シオンも、動かないのはちょっと困るけど、あそこからよく盛り返したって褒めていたし!」
千蔭が昨日のことで落ち込みそうになったので、英人は懸命にフォローする。
「英人、普段は社長のこと呼び捨てなんだな」
「…そこはどうでもいいでしょう!」
「とりあえず社長の言いたいことは分かりましたよ」
脱線した話を治喜が元に戻す。
「何故か公言しませんが、社長って私たちが入れ替わっていること知っているみたいじゃないですか」
「実のところ、俺が前島光だってことも気づいていました。俺が子供の頃、前島芸能事務所でレッスン受けていたところを見たことあるらしくて」
「…チカのそのこと知っていて、Eternalが出ているフェスに参加させようとした意図が分からない」
「ひとまずそのことは置いておきましょう。天野さんと南浦さんと北見さんは入れ替わった状態からこの事務所に入ったでしょう。でも、私と西山さんは入れ替わる前からこの事務所にいたんです。社長以外の人の前ではそれぞれ演技をしないといけないってことなんですよ」
あー、とみんな納得する。
「今まで見ていて思いました。西山さん、私のフリする気ないでしょう」
「は?俺はやってるっつーの」
「どこがですか!?だ、ですとかぎこちない敬語しかできないじゃないですか!?私の体なのに、柄の悪さがにじみ出ているんですよ!?」
「そういうてめえはどうなんだよ!?」
「あ?てめえは昨日Eternalとのやりとり覚えてねえのかよ?ちっと難しい言葉は使っちまったし、左右田の野郎に振り回されたが、それ以外は完璧だったろうが!」
おー、と感嘆の声を上げて、治喜の空高の真似に周りは拍手する。
治喜はふふん、と得意げに笑う。
空高はぐうの音も出ないで悔しがっている。
「フリもそうだけど。歌はまあ、同じくらいだからいいとして、ダンスなんだよな。もちろん、ハル先輩も上手いけど、やっぱりプロでずっとやってきたアキ先輩とは…」
「言葉を選ばないでいいですよ。いつかは追い抜くつもりですが、今は届かないのは分かっているので」
「それぞれのフリができるかはともかく、本来の自分でいられる時間は貴重だよな」
学校や家ではその体として、振る舞わないといけない。
本来の自分でいられるのは、事情を知っているこのグループの人だけがいるとき。
「でも、これは私たちのわがままですから」
治喜は話す。
「私たちはまだアイドルとして未熟です。それに、年長の私たちが君たちが学ぶ機会を減らすなんてもってのほかです」
「この空間にプロの大人も呼ぼうぜ。なんたって、打倒Eternalを掲げているんだからな!」
空高は力強く笑いかけた。




