51話
そして、曲が終わった。
「初めましてー!俺たちネクストプロダクションから来ました!」
先ほどまで緊張していたのとは、打って変わって明るくなった千蔭。
「無名な俺のことも応援してくれてうれしかったです」
「ったく、動きが止まったからどうしたと思ったぜ」
治喜が肩を組んで、笑いかける。
そのギザギザした歯を見せる笑い方は空高なんじゃないかと錯覚させる。
「悪い。緊張してた」
その千蔭の発言に観客たちは笑う。
「どのタイミングでち、天野さんのフレーズ歌うか相談できなかったんだ、ですよ。偶然合ってよかったな、です」
一方空高は敬語にぎこちなく、治喜のフリが全くできないので、ほっとする。
「だって、空高さんはダンスでステージたくさん出ているし、治喜さんは雑談だけじゃなくて、コレクションとか出ていて。俺はこれが二回目だから」
「だからって、俺らに迷惑かけといていい訳ないよなあ」
空高のヤンキーっぽい見た目だけあって、凄むと迫力ある。
「アキパパ怖い!助けて、ハルママ!」
「誰がママだ、ですか」
「誰がパパだ」
「「ってか、誰と誰が夫婦だ/ですか!?」」
3人のコントみたいなやり取りにますます観客は笑い出す。
「じゃあ、俺リベンジしたいなー」
「おお、やれやれー」
「お、私たちもリベンジしたいですからね」
「じゃあ、次の曲行きますか」
きゃあ、と歓声が上がる。
「またこの曲で一緒に盛り上がりましょう。nanaのカバー、『ファンタジー』」
この曲は、事務所主催のライブでやった千蔭たちの始まりの曲。
治喜と空高が失敗した曲で、まさにリベンジ。
千蔭も吹っ切れて、最初から踊ることができた。
「あいつ、けっこうできるじゃないか」
観客席から火皇はぼそっとつぶやく。
光から千蔭のあがり症エピソードをさっきまでさんざん聞かされていたので、一曲目のときは案の定と期待していなかった。
治喜と空高はそんな千蔭のフォローができていたので、前回nanaの曲を穢したことは許せないが、まあ認めるだけはしようと。
でも、全く動きもしない千蔭に対しては、今からステージに乗り込んでやろうかとも思った。
しかし、後半からは盛り返すことができていた。
「まあ、プロがそんな甘いこと言ってられないがな」
隣にいた照に話しかける。
しかし、照はステージを見ておらず、周りを見渡していた。
「あ、グリくんいた」
今にも追いかけようとする照を、服の首元をつかむ。
「他の客に迷惑だろう。こんなある特定の人に猪突猛進な奴とは思わなかった」
呆れながらも、照が行こうとしたところを見る。
(あ、真中社長だ)
前島芸能事務所にいたことがあるので、顔は知っていた。
(隣にいるのは、地蔵堂って奴だな。社長と仲が良いのか?)
その姿にどこか既視感を感じる。
(あいつ、nanaさんと似ている…?いや、気のせいだな)
火皇は再びステージを見る。




