50話
「続いては、SNSで話題沸騰中!ネクストプロダクションのみなさんです!」
MCから呼ばれて、観客席から歓声が上がる。
「いよいよだな!」
「行きますよ!」
治喜と空高が駆け出していく。
千蔭は顔をうつむかせて、後を追いかける。
曲が流れ始める。
この曲はCMになって、話題になった曲だった。
nana本人も学生と混じって映った携帯会社のCM。
学生が出ていることもあって、青春らしい爽やかな1曲。
千蔭の視界に満席となった観客席が入ってしまった。
(息が苦しい)
やはり、あがり症で心臓が高鳴る。
過去の授業よりもリハーサルのときよりも息が荒い。
イントロがあり、もともとnanaの原曲では待っているだけだったが、踊りが得意な空高がいることでアレンジした。
真ん中に立つ千蔭の後ろで、治喜と空高が踊っている。
観客にはそれが演出だと思われたのか、気にしないでペンライトを振っている。
一番最初の千蔭のフレーズが始まる。
息をのみ、歌おうとするが、声が出てこない。
食い気味で治喜が前に出てきて、代わりに歌う。
そのあとに空高も続いて出てきたので、逆三角形でまとまった形になった。
それでも、ずっと歌わず踊らずな千蔭は観客に不信感を抱かせる。
(やっぱり、俺いない方が…)
「千蔭くん、頑張ってー!」
「え…」
その声の方を見る。
観客席にいる顔も名前も知らない女性。
彼女が口に手を当て、大声を出している。
その瞬間、千蔭はまるで真っ白な空間にいるような気がして、音楽が耳に入らなかった。
「いきなりこんな大きな舞台だもん!緊張しちゃうよね!」
「ドンマイ、千蔭!」
「またあのニヒルな笑顔が見たーい!」
(俺に、こんなファンが…)
もともと知名度があった治喜と空高と違って、メディアに露出したのは、二週間前のライブきり。
自分の公式のアカウントはまだ持っていなかった。
歌と踊りはたった一度しか見せたことなかったのに。
それなのに。
(もう、俺を応援してくれる人がいたんだ…)
涙がこぼれてきそうだった。
でも、今は涙を流している暇はない。
(せっかく応援に来てくれた人を楽しませないと)
だんだん、サビへと近づいてくる。
千蔭は切り替えるため、深呼吸をした。
そして、前に歩き出す。
それまで代わりばんこで千蔭が担当するはずだったフレーズを歌っていた二人も徐々に後ろに下がる。
笑って、見守っていた。
(二人も俺のこと信じてくれている)
このまま、動けないと逃げるのはごめんだ。
顔を上げて、観客席をまっすぐに見つめる。
サビの初めのフレーズをしっかり響かせた。




