49話
「よーし。これで隠せたでしょー」
群里が千蔭のまぶたを上塗りした。
「ありがとう、グリ」
「お前、メイク上手いな」
事務所は中堅だが、まだデビューもしていない彼らは、メイクも自らでやっていた。
今回の衣装も、市販のをアレンジしてステージ衣装っぽくしている。
イメージカラーは決まっていて、千蔭が黒、治喜が緑、空高が赤だ。
ただ、まだ彼らのグッズは販売されていない。
「いよいよ時間ですね」
治喜がステージの方向を見て、言う。
「俺らのリベンジだな」
空高は、気合いを入れるように、手のひらに拳を打ちつけた。
「人並みかもしれないけどさ、手に人って書いて、飲み込んでみ?俺はいつもそれで緊張紛らわしてた」
「英人も緊張することあるんだな。何でも卒なくこなしていると思ってた」
「…誰だって、緊張はするよ」
スタッフに出番だと呼ばれる。
「じゃあ、今回はボクたち観客席にいるね」
「社長もいるらしいしな」
「じゃあ、楽しんでこいよ」
英人たちは出ていく。
そして、千蔭たちはステージ裏に向かう。
楽屋では、Eternalが話をしている。
どれだけ千蔭があがり症かのエピソードを話していた。
「それなのに、よくアイドル目指そうとしたね。俺だったら、まず考えないな」
「身近に僕がいたから、影響を与えたみたいで。何か悪いことしたな」
「光って、天野のこと昔から知ってたのか」
「まあ、ね…。小学校一緒だったから」
「そういえば、もうすぐ本番ですね」
照が時計を見る。
「ハルっちとアキっちは気になるけど、また失敗したのは見たくないなあ」
「うん。だから、お勧めしないよ」
「今回はグリくんが出ないから。あ、でも観客席にグリくんいるかな」
「僕は行くぞ。nanaさんのカバーをするなら、それを見届ける義務がある。また、nanaさんのカバーをして失敗したなら、僕が引導を渡してやる!」
「相変わらずnanaバカだなあ」
「何か言ったか、灯」
「火皇さんが行くなら、僕も行きますね」
観客席。
社長の隣には英人がいる。
「お前は脇で見ていたら、いいのに」
「ちゃんとした大人のマネージャーもいるじゃないですか。忙しいところに、演者じゃないのに子どもがいるの大変かもしれませんし。今日は観客として楽しみます」
「といいつつ、仕事モードが抜けていないのか、敬語で話すので、詩音くんは寂しいです」
「変な絡みかたしないでよ」
「…でも、あいつって、あがり症なんだろ。そばにいなくていいのか?」
「別の仕事が入ったから、今来たばかりだよね?話聞いていた訳じゃないんだよね」
「所属タレントのことくらい調べないでどうする」
どこから取り出したのか、手ぶらだったはずなのに、メンバーそれぞれのことが書かれた分厚い資料があった。
「ちゃんと仕事をしているんだなって、認めたらいいのか」
英人は頭を抱える。
「俺にできることはないよ。まさか、千蔭みたいにステージに飛び出せって?」
英人は冗談を言ったように笑う。
((社長はそれを望んでいたんだろうな))
社長の英人の溺愛ぶりを群里も聖夜も聞いているので、思わずジト目になる。
「大丈夫だよ。彼らなら、やれるよ」




