4話
放課後になり、千蔭は家路へと戻る。
英人は週末まで事務所で準備が忙しく、放課後は時間がないそうだ。
マネージャー業をやるのなら、ますます放課後遊ぶ時間は少なくなるだろう。
したがって、英人以外に友人のいない千蔭は一人の時間を過ごすことになる。
(別にいいよな。一人は一人でゲーム進める時間が増えるだけだし)
転校してから中学まで友人のいなかった千蔭は、一人の時間も苦ではなかった。
(アイドルがそんないいのかよ)
寂しくないとは言わないが。
転校したばかりの頃から、手紙のやりとりをしていた。
でも、いつの間にか連絡は途切れ、しばらくするとテレビのニュースでアイドルの一人として、デビューしたと聞いた。
確かにアイドル目指すという話はあったけど、本当になるとは思わない。
(まあ、素質はあったけど)
アイドルになれる実力はあったし、連絡が途切れたあと、トレーニングに勤しんでいたのなら、より実力は上がったと思う。
(なんだかんだで頑張り屋だったからな)
多分その素質は今でも変わらないはずだ。
まあ、隠された寂しさは変わらないが。
なので千蔭はアイドルというものにいい感情を抱いているとはいえない。
まあ、英人にたくさん助けられてきたので、英人に頼まれた仕事はしっかりやるつもりではあるが。
そうして歩いていくと、声が聞こえてきた。
「何でてめえがこっちにいるんだよ!」
「私も事務所に用があるからですが!」
言い争う声がした。
(東川先輩と西山先輩じゃん…)
学校で言い争っている先輩は、学校の外でも言い争っているようだ。
本当にこの2人がアイドルとしてやっていけるのだろうか。
こう人目を気にしないで喧嘩しているのは、芸能人として、どうなのだろうか。
ダンサーの西山先輩はまだそんなにメジャーじゃないにしても。
モデルの東川先輩は眼鏡の有無で変装できるとはいっても。
「あのー、先輩方…」
千蔭が声をかけようとした。
「うわ…」
「えっ…」
2人の姿が目の前から消えた。
「え…」
ガタゴトドサッと激しい大きな音がした。
消えたところを駆け寄る。
そこは階段になっていた。
2人は、喧嘩をして足下が疎かになり、階段を転げ落ちたようだった。
階段の上から見下ろすと、2人が倒れているのが見えた。
「もしかして、頭打ったりしているのか?ひどい怪我じゃないといいけど」
その姿が千蔭にとって、嫌な予感を抱かせた。
(まさか、ね…)
千蔭は彼らの意識を確認するために、階段を駆け下りていった。