32話
ひとまず紹介だけはすることを約束し、それぞれ学校へと向かう。
朝から妙な奴に絡まれ、疲れていた。
でも、鞄の中には今日から事務所に入れる書類が入っている。
そのことだけで、気分が盛り上がっていた。
クラスに行き、英人に無事事務所に入れることを伝えた。
そのことを自分のことのように喜んでくれていた。
社長には、今日資料を渡すことを昨夜のうちに伝えてあるので、今日も事務所に行くことも伝える。
本格的にデビューするのはまだまだ先なので、しばらくはレッスンのみ。
もともと2人の予定が急きょ3人になってしまったので、入れ込む仕事を探している最中だという。
お昼になり、今日は1人で食べることになる。
というのは、英人が2年に上がってから、クラス委員になったからだ。
もう新学期なったときには、生徒会役員の治喜がアイドルになることが決まっていたので、少しでも手助けになるために、なることを決めた。
そのことを聞いたときは、千蔭はマネージャーの鑑だなと感心していた。
入れ替わった今となっては、空高には本当にサポートが必要だなと思っている。
治喜自身も、見えないところでこっそりと手伝っているらしい。
今日はお弁当ではないので、購買に行った。
教室で食べるかどこか別のところで食べるか、歩きながら考えていた。
その道すがら、治喜が見えた。
「治喜さ…」
近づいて言いかけてから、自分の口を両手で抑える。
治喜は誰かと話しているようだった。
空高の友人らしいアクセサリーをチャラチャラつけたちょっとやんちゃな雰囲気だった。
「あれって、空高の後輩くんじゃね?」
「あの真面目くんと間違えてやんなよ」
千蔭の存在に気づき、千蔭の失言を笑う。
「あ、そういや話あったな。忘れてて、悪かった。ちょっと行ってくるな」
「おー。頑張れ、アイドルー」
空高の友人たちは快く送り出してくれる。
治喜は空高のフリは自然な気もするが、やはりどこか緊張しているようだった。
「すいません、お邪魔してしまって」
なんとか誤魔化されてくれたが、空高の大根役者ぶりを笑えないなと、千蔭は自分に対して苦笑い。
「いや、私も西山さんの友人たちに対して、いつぼろが出るか不安だったので。連れ出してくれて助かりました」
「まあ、治喜さんとタイプ違いますもんね」
そのまま、お昼も一緒に食べることになり、歩いていく。
その途中、角でお互い見えづらいところでぶつかってしまう。
空高の体格はまあまあいいので、相手は尻もちをついてしまう。
「すみません、大丈夫ですか?」
そう言って、手を差し伸べる。
「空高さん!対応違います!」
「あ…」
やはりとっさのことになると、素の自分のが出てしまうようだ。
空高だったら、逆にすごむだろうが、今さら軌道修正は難しい。
「いや、大丈夫だ。先輩だろうか?」
空高の見た目に対して、冷静に対応する。
空高の存在を知らないことから、彼も今年入ったばかりの1年生。
芸能関係をあまり知らないのだろう。
男子高であり、別に芸能課とかである訳でないため、自らの高校に芸能人がいることを知らないのは珍しくない。
相手は、ほこりをはらい、立ち上がる。
その姿を見て、2人は目を丸くした。




