30話
その後はレッスンをして、それぞれ家へと帰っていった。
家に帰ると、千蔭の保護者に芸能事務所の資料を渡した。
両親や妹の千春は千蔭がアイドルになることに目を丸くして驚くが、了承して、契約書などを書いてくれた。
明日にまた渡しに行き、週末には母親と社長が面談をすることになった。
そして、翌日。
いつも通り学校に向かう。
昨日よりは落ち着いたが、有名人となった千蔭に対する視線は多い。
そして、やけに強い視線を感じていた。
(というか背後に誰かがずっと着いてきている気がするー!)
ちらりと後ろを見る。
眼鏡にマスクで顔をかくした、パーカーのフードをかぶったいかにも怪しい長身の男と思われる人物が塀越しに千蔭を覗いていた。
「よ、ちーかげっ!」
肩をポンと叩かれる。
「空高さ…」
ばっと口を両手でふさぐ。
「別にこの辺り人いないから、別にいいんじゃね」
「…いるんですよ」
コソコソと小声で話し、後ろに目線をやる。
空高もその存在に気づいた。
「お前ストーカーでもいたのか?」
「今回が初めてですよっ!」
前島光時代にも体験しなかったので、初めての経験に怯えている。
「こういうのは、はっきり言えば退散すんだよ」
「え…」
拳をこきりと鳴らす。
そして、謎の青年のもとへと歩みよっていく。
「おい、てめえ!千蔭に何つきまとってんだよ!!」
謎の青年に対し、すごむ。
「え、東川先輩…?」
謎の青年はその対応に戸惑っている。
「それ、治喜さんの体!」
「あ、やべ」
千蔭も後を追いかける。
「あー、天野先輩にも気づかれちゃったか」
あーあとため息をついた。
(そういや、この人低くて落ち着いた声をしているな。口調はちょっと子供っぽいけど)
「それで、千蔭…さんに、何の用…ですか?」
空高はたどたどしいながらも、治喜のフリをする。
「別にいいですよ。でも、まさか東川先輩がキャラ作っていたとは。今まで学校でもバレなかったなんて、すごいですよね!」
「いや、まあ…」
変な方向に誤解されている気がする。
「これだけできるなら、これから役者業もできそうですよね!」
(いや、今のバレかけている空高さんの状況からしたら無理だろ)
「東川先輩がいるなら、東川先輩でもいいかな。事務所を紹介して欲しくて」
「事務所?ってことは、芸能人になりたいとか?」
「だったら、そのマスクを外せよ」
「えー、騒ぎになっちゃうのに。しょうがないですねぇ」
手慣れたように、マスクを外す。
取ったあとの顔は、小顔で造形が整っている。
本人が言うように、騒ぎになるのもうかがえる。
でも、
「「誰?」」
「南浦群里ですよ!」




